機能強化型訪問看護ステーションと地域包括診療料を算定する診療所への期待値は高い

2014年診療報酬改定では機能強化型訪問看護ステーションと地域包括診療料が新設された。

機能強化型訪問看護ステーションは
「5名以上の常勤看護師が確保された体制で看取りや重症患者に取り組む訪問看護ステーション」が期待されており、高い診療報酬の単価が設定されている。

地域包括診療料は
「3名以上の常勤医師の体制で高血圧、認知症等の管理および介護保険対応、時間外対応を行う診療所」が期待されており、これも高い診療報酬が設定されている。

この二つの新設項目は、高い診療報酬単価が設定されていることからインセンティブ項目であることが明白である。

伝統的に、訪問看護ステーションと診療所は、「少ない人数で効率よく業務を行う」イメージがあり、経営者や管理者も小さい組織に対するマネジメントしか行ってこなかった。

しかし、昨今の医療・介護情勢の変化により、訪問看護ステーションと診療所の大規模化が求められている。

大学病院や500床以上の病院の外来機能縮小、急性期や回復期病院からの在宅復帰者増加などにより、地域の訪問看護や診療所の役割は変化してい。

医療介護政策により、地域には軽度者から重度者が在宅で生活をしており、様々なニーズに対応できる訪問看護や診療所が必要になってきている。

外来診察、訪問診療、介護保険サービス、急変時の対応、看取り、回復を促すリハビリテーション、生活機能向上のためのリハビリテーション・・・など、多くのニーズが地域には存在している。

これらのニーズに対応するためには、当然のことながら、マンパワーが必要である。

マンパワーが増えれば、当然、高度なマネジメントが必要となる。

今まで、訪問看護ステーションや診療所は最小限の人数、最小限のコストで行うことにより高い利益率をあげてきた。

しかし、今後は、地域のニーズに応えることができる大規模化事業所がのみ生き残る仕組みへの変更を厚生労働省は試みている。

訪問看護ステーションと診療所の生き残り方法には、答えが出ている。

しかし、多くの事業所はその対応策を取っていない。

マーケット感覚のなさが、自らの事業所を破滅に追いやる。

 

 

 

 

 

多くの看護師・療法士とって病院・診療所・介護施設の経営は他人事である

帝国データバンクによると、医療機関や介護事業所の倒産件数は増加している。

特に、介護事業所と診療所の倒産件数の増加が目立つ。

年々、事業所や診療所が増加しているため、競争が激しくなり倒産するケースが増えている。

言い換えると、「少し競合が増えるだけで倒産するような診療所や介護事業所が増えている」と言える。

2010年ぐらいまでの倒産の原因は、多角経営の失敗、設備投資の失敗であったが、近年は経営環境の悪化に対応できなかったための業績不振である。

安倍政権になって、多少、金融機関の締め付けが緩くなり、資金繰りが改善したため、倒産件数はやや減少傾向となった。

しかし、2018年診療報酬・介護報酬のダブル改定で大幅に減収する医療機関や介護事業所が増えると予想され、倒産件数が急増するのではないかと予想されている。

医療機関や介護事業所の生業を支えているのは間違いなく現場で働く職員である。

その職員の経営参画の意識なしに今後の医療機関・介護事業所は生き残ることは不可能である。

当然、経営者や事務長クラスが経営への意識が低ければ、倒産まっしぐらである。

「従業員への経営参画意識の向上」が2018年に向かって大きな課題である。

基本的には「看護師・療法士とって病院・診療所・介護施設の経営は他人事」である。

医療関連資格を取った時点で、専門家として働いていることから、あくまでも「自分の専門性を発揮するが仕事」と考えている看護師・療法士が多い。

経営体力があるうちに、経営指標や統計を公表し、現状把握に対する問題意識を常日頃から現場に伝達する必要がある。

そして、改善策を立てて、実行していく。

改善策をより効果的なものにするためには、職員に経営参画意識を浸透させ、モチベーションを高められるようにしなければならない。

そのためには、組織風土醸成、採用者の厳選、経営幹部のリーダーシップ、中間管理職のフォロアーシップ、研修によるスキルアップなどが日頃から実行されていなければならない。

これらのことは当たり前な事であるが、多くの人は他人事だと思っている。

他人事ではなく、自分事である。

倒産するような組織で働いていること自体が、自分の成長を阻んでいるからである。

 

なんちゃって医療・介護事業所は本気で淘汰される

地域医療構想が2015年度より本格的に検討される。

地域医療構想とは地域ごとの医療需要に的確に応えるため、病院や有床診療所に対して病床機能の現状(高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4区分)を都道府県に報告させ、その後に報告された医療機能が満たされているかどうかを判断し、医療機能が満たされていない場合は、病床の変更や返上を国より命ずる制度である。

公的病院は都道府県知事の命令により強制的にこの指示に従わなければならない。

都道府県知事の命令により民間病院が病床の変更や返上に応じなかった場合は、医療機関名が公表されるというペナルティーが課せられる。

現在、厚労省では各医療機能の医療資源に費やした費用の標準化を図っており、標準化された費用に満たない医療機関は「各下げ」を命令されるスキームが検討されている。

介護報酬改定でも、通所リハビリテーション、小規模デイサービス、特別養護老人ホームの淘汰が本格的に始まった。

2015年度介護報酬改定では、基本報酬を下げ、加算部分で評価するという手法が全面的に導入された。

今まで、地域連携、重症利用者、リハビリテーションに対して質の低いサービスで対応していた事業所は、一気に経営が悪化する状況となった。

診療所や訪問看護ステーションも安心できない。

地域包括診療料や機能強化型訪問看護ステーションなど明らかに専門職スタッフの人員増を促進する施策が導入されている。

国はやる気のない「なんちゃって急性期」「なんちゃって回復期」「なんちゃってリハビリ特化型通所介護」「なんちゃって通所リハビリテーション」を本気で潰そうとしている。

このことに気づいてない経営者は経営者としての資質はないし、危機感を感じていない医師、看護師、セラピスト、介護士等も明るい未来はない。

自分が勤めているところが「なんちゃって・・・」ではないか、今一度、確認をして欲しい。

リハビリテーション費用の包括化とICFが推進されている時代だからこそ、質の高い個別リハビリテーションが必要である

2014年度診療報酬改定における地域包括ケア病棟、2015年度介護報酬改定における通所リハビリテーションの生活行為向上リハビリテーション実施加算、社会参加支援加算、そして、今後、議論されるリハビリテーションの出来高算定の在り方。

これらの話はすべて、リハビリテーション費用の包括化を示すものである。

現在の単位時間あたりの個別リハビリテーションの提供は、以下の特徴がある。

1)提供サービス時間に対する料金体系であるため、患者の理解が得られやすい
2)レセプトの請求が簡便である
3)リハビリテーションは施術行為と捉えられているため、提供時間を明確にして施術を提供することが合理的と考えられている

しかし、現在、単位時間あたりの個別リハビリテーションの提供方法が疑問視されている。

「リハビリテーションは施術ではなく、全人間的復権を支援するあらゆる活動をである。特にICFが提唱する心身機能・構造、活動、参加のすべてに介入することが、リハビリテーションを提供する上では重要である」との主張がここ数年間の医療・介護報酬改定に反映されている。

また、一部の有識者達は、「看護師は個別看護ではなく、包括的な業務や他職種連携の中で、看護を提供して、病棟の基本入院料を算定している。だから、個別リハビリテーションをなくして、セラピストも包括的な取り組みで、リハビリテーションを行い包括的なリハビリテーション料を算定すれば良い」という主張をしている。

これらの考え方には、賛否両論があるが、私の考えは以下のとおりである。

まず、リハビリテーションはICFの概念に基づけば、心身機能・構造、活動、参加に対して総合的にアプローチするものである。

つまり、心身機能・構造はリハビリテーションの重要な部分であり、心身機能・構造と活動、参加を有機的に統合させる介入が必要不可欠である。

そのため、活動と参加を円滑に進めるための心身機能・構造を獲得することは重要である。

心身機能・構造を改善させるためには、患者の個別性とエビデンスに基づく集中的な治療的介入は必要である。

生活期の患者であっても、定期的に医師の診察を受けて、投薬などの積極的治療を受けるのと、同様にリハビリテーションの介入により心身機能・構造をよりベストな状態に保つことは、活動、参加を保証する上で重要である。

したがって、単位時間あたりの個別リハビリテーションの提供方法は、必要であり報酬上も評価される必要がある。

有識者より「看護師は個別看護をせず、包括的な業務や他職種連携の中で、看護を提供して、病棟の基本入院料を算定している。」との意見があるが、個別看護というものが提供された場合、患者状態を大きく改善する可能性も高い。

実際に、訪問看護では、個別看護を提供し、患者の様態が大きく改善している。

心身機能・構造を改善させる単位時間あたりの個別リハビリテーションは、活動、参加の向上に寄与しなければならない。

従来のリハビリテーションは、活動、参加の取り組みが少なかったことから、2015年度介護報酬改定にて患者の行動変容への介入や社会活動参加機会の提供といった取り組みを評価する報酬体系が導入された。

このような報酬体系の導入は、セラピストの働き方を大きく変える。

リハビリテーションは生活支援総合業務に変わりつつある。

生活支援総合業務とは、心身機能の改善、生活上の困難な活動や参加に関する評価や介入、社会参加資源の発掘、患者を支える関係者へのコンサルテーションなどである。

心身機能・構造を変えるスペシャリストとしてのセラピスト
活動、参加をコンサルテーションできるジェネラリストとしてのセラピスト

つまり、医療や介護保険のリハビリテーションの包括化が進む中で、活躍できるセラピストはスペシャリストとジェネラリストの両面を追求し、実践できる人材である。

従来より活動、参加に対するアプローチの介入が増加すれば、単位時間あたりの個別リハビリテーションの提供時間は物理的に少なくなる。

したがって、リハビリテーションの包括化が進む時代だからこそ、短時間で結果の出せる個別リハビリテーションを提供しなければならない。

リハビリテーション費用の包括化やICFは、心身機能・構造、活動、参加のそれぞれへの高品質なリハビリテーションの介入を求めていると言える。

 

2015年 介護報酬改定 リハビリテーションマネジメント加算Ⅱとリハビリテーション会議という厚労省のトラップに気づいているか?

2015年介護報酬改訂にて「リハビリテーション会議」という言葉が出現した。

この会議は、通所リハビリテーションやリハビリテーション事業所における加算項目であるリハビリテーションマネジメント加算Ⅱの要件として設置が求められているものである。

リハビリテーションマネジメント加算Ⅱの説明文は次のとおりである。

(1)リハビリテーション会議を開催し、利用者の状況等に関する情報を、会議の構成員である医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、居宅介護支援専門員、居宅サービス計画に位置づけられた指定居宅サービス等の担当者、その他関係者と共有し、当該リハビリテーション会議の内容を記載すること。

(2)通所リハビリテーション計画について、医師が利用者又はその家族に対して説明し、利用者の同意を得ること。

従来から行われていた情報交換を主体としたミーティングやサービス担当者会議ではなく、リハビリテーションに特化した会議を、医師を含めた専門職にて開催することが求められている。

また、項目の(4)には以下のように記載されている。

(4) 指定通所リハビリテーション事業所の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が、介護支援専門員に対し、利用者の有する能力、自立のために必要な支援方法及び日常生活上の留意点に関する情報提供を行うこと

つまり、リハビリテーションマネジメント加算Ⅱは、自立支援に向けた取り組みを本格的に行うために、医師を含めた専門職による会議を行うことが求められていると解釈できる。

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今回の介護報酬改定でこのような加算要件が設定されたことは、厚労省より「今までは、自立支援に向けて医師を含めた専門職の取り組みは不十分でしたよね?」とダメ出しをされたに等しい意味を持つ。

現在、著者のところにリハビリテーションマネジメント加算Ⅱとリハビリテーション会議の運営方法に関して多くの相談がきている。

その内容は「医師が協力してくれない」「医師は会議に出るが、リハビリテーションなんかわからないと言っている」「理学療法士や作業療法士が他職種に助言することが苦手」「自立支援に向けたシステムが整ってない」などである。

これこそまさに、厚生労働省が望んだ「カオス」である。

この「カオス」から、抜け出した事業所が真の生活期リハビリテーションを行う資格を与えられる。

通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションの目的が、「利益のみ」であったところは、今回の介護報酬改定で間違いなく内部崩壊を起こす。

「自立支援と利益」を追求していた健全な事業所は、2015年度介護報酬改定は追い風となる。

2018年の介護報酬改定では、リハビリテーションマネジメント加算Ⅱは包括化される噂もある。

そうなると多くの通所リハビリテーションは存在意義を失い、収益も低下するだろう。

診療報酬改定や介護報酬改定は、制度変更を通じて、「人の働き方」「組織のあり方」の変化、つまり、働き方の変化、つまり、ワークシフトを求めている。

今まさに、ワークシフトの概念で組織をマネジメントすることが必要な時代になったと言える。