「営業活動をして利用者を集めてこい!」という院長・経営者・事務長は、臨床現場が最大の営業活動であることを忘れている

2000年以降の緊縮財政により、医療・介護事業では経営環境の変化に伴い、患者や利用者獲得のための「営業活動」が活発化した。

医療の機能分化の促進、介護保険事業所の増加により、患者や利用者の争奪戦の状況が生まれ、地域連携室や事務方の職員などが地域の医療機関、介護事業所、居宅介護支援事業所に患者や利用者の獲得目的で挨拶回りに行くなどの営業行為は、もはや、ごくごく普通のことである。

しかし、そんな「営業行為」だけでは、もうどうしようもないほど現在の医療機関や介護事業所を取り巻く環境はより厳しさを増している。

地域包括ケアシステムの推進は、各医療機関や介護事業所の「実力」を白日の下にさらしている。

在院日数短縮
重度者対応
ADL改善
24時間365日対応
地域連携
自立支援
ターミナル対応
多職種連携
認知症対応
など・・様々な項目への取り組みが医療・介護事業所の必須事項になっている。

昨今ではこれらの項目に対応できない場合、患者や利用者だけでなく、連携医療機関や介護事業所から、不信に思われる。

例えば、次のような事例は「不信」を招く典型例である。

営業活動で、「〇〇の疾患であればすぐに入院対応できますので、いつでも、ご連絡ください」と言っていたが、いざ、入院の依頼をすると先方の医師の判断で入院が断られる。

自立支援を目指しているデイサービスという紹介で、デイサービスを利用したが、筋力トレーニングだけのデイサービスだった。

「365日24時間対応の訪問看護ステーションなんで、ご安心ください」と利用者に伝えていたが、実際に深夜に電話したら、オンコール担当の看護師の態度が悪かった。

「リハビリテーションを中心にしている病院です」という紹介で入院したが、土曜日、日曜日はリハビリテーションがなかった。

旧来の営業活動は、エクスターナルマーケティングといわれるもので、いわゆる、認知度を高めるための行為である。

こんな医療をしている医療機関ですよ!
こんなことに取り組んでいる介護事業所ですよ!
ということを、市場関係者に伝えることで、サービスや商品の購入を促進するものである。

エクスターナルマーケティングは
競合が少ない
市場が成熟していない
相手に知識がない
場合に有効である。

しかし、昨今の医療・介護情勢については、医療・介護分野の関係者だけでなく、多くの国民もインターネットなどのメディアを通じて知っていることが多い。

そのため、認知度を高める程度では、サービスや商品の購入が起こりにくい。

そこで、重要なのがインターナルマーケティングである。

このマーケティングは
社員に自社のサービスや商品の価値を教育し、日常的な活動において顧客の期待を裏切らないようにする
ことである。

言い換えると、「自社が謳っているサービスや商品の質を常に順守する」ということである。

よい噂を聞いたので、実際に利用したが、期待していたサービスを下回ったことはないだろうか?

このような場合、もう一度そのサービスを利用したいと思わない。

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医療・介護分野では、患者・利用者の獲得目的の営業は、エクスターナルマーケティングのような活動だけでは、もう、効果を出すことはできない。

利用者や入院稼働率が低下した場合、多くの経営者や院長は「外部の事業所に営業に行ってこい!!!」と言う。

しかし、この発言は本末転倒であることが多い。

そもそも利用者や患者が減っている理由は何だろうか?
なぜ、利用者や患者が離れて行っているのだろうか?

ほとんどの人は
臨床現場が、「インターナルマーケティングというマーケティングの最前線であること」を理解していない。

今一度、臨床現場におけるマーケティングを見直すべきである。

診療報酬・介護報酬低額化時代 勝ち残るために必要なのはネットワークである

ネットワークとは
連絡を保って網状になっている構成体
のことである。

ビジネスの世界では、一度ネットワークを構築することができれば必ず一定数の販売は確保できるという原則がある。

わかりやすい例は、「Google」である。

Googleはchrome、Gmail、Google calendar、Google Street View、androidなどのITテクノロジーを駆使して、全世界におびただしい数のエンドユーザーを確保している。

そのGoogleが、今後、どような商品を発売しようとも、必ず一定数は売れる。

なぜならば、Googleとエンドユーザーは強くネットワークにより結ばれているからだ。

また、様々なネットワークを持つことでGoogleは自らの技術を活かした商品を発売することができる。

例えば、Googleは現在、自動運転ができる車を開発している。

その技術の裏には、Google Street View、androidが活用されている。

このように、エンドユーザーと強く結くことができるネットワークを数多くもつことで、市場に対しては「破壊的な力」を持つこと可能となる。

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診療報酬・介護報酬が低減化していく中、医療機関や介護事業所は、医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護福祉士の雇用者数を増やして、できるだけ一人当たりの売り上げを確保しようとする。

つまり、薄利多売作戦である。

しかし、この薄利多売作戦がうまくいくためには、患者や利用者が常に一定数確保できるという前提条件が満たされる必要がある。

すなわち、患者や利用者を確保することができるネットワークの構築がこれからの時代では重要である。

2000年以降の緊縮財政政策により、社会保障分野の費用は削減された。

2000年以降、医療・介護分野では「営業が重要だ!」と言う経営者が増え、多くの医療機関や介護事業所は営業活動を行っている。

しかし、その営業活動は
パンフレットを配る
事業所へ挨拶周り
電話を掛ける
営業のFAXを送付する
という程度のものであり、認知度向上程度の効果しか期待できないものがほとんどである。

これからの時代において、患者、利用者を確保していくために必要なのは、ネットワークの構築である。

そして、地域包括ケアシステムは、まさにネットワークの構築を求めている。

特に、リハビリテーション分野や重症者対応に関してはネットワークの構築が重要である。

なぜならば、リハビリテーション分野と重症者対応は理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、医師のサービスの差が最も目立ちやすいものであるため、エンドユーザーであるケアマネージャー、患者、利用者、家族は質の高いサービスを得ることができるネットワークへの関与を希望するからである。

皆さんが勤めている医療機関・介護事業所は、ターゲットしている患者や利用者に対してネットワークの構築ができているか?

 

 

 

重症患者・利用者の評価ができないセラピストが干される時代へ

近年の医療保険・介護保険に関する改定のトレンドの一つは、「重症対応」である。

リハビリテーション分野に関しても「重症対応」が進んでおり、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は「重症者へのリハビリテーション技術」を獲得しなければならない時代になってきた。

急性期病棟や回復期リハビリテーション病棟の重症患者の受け入れ
療養型病院の医療区分の厳格化
訪問看護ステーションの特定疾患やターミナル患者への評価
などは、そこに勤めるセラピストに「重症対応」という課題を突き付けている。

2006年の疾患別リハビリテーション料、算定日数上限
2008年の回復期リハビリテーション病棟へのP4P
は、「著しい回復が見込める患者に対する効果判定」を行うものであった。

しかし、2012年以降の診療報酬・介護報酬改定は「重症対応」を推進したため、リハビリテーション関係職種は回復期過程の患者・利用者だけでなく、重症な患者・利用者への対応が必要となってきている。

回復過程の患者の評価についてはすでに様々な手法が開発されている。

手段的ADLの質問票
1) Lawtonの尺度
電話をする能力、買い物、食事の準備、家事、洗濯、移動の形式、服薬管理、金銭管理の項目からなる。
2) 老研式活動能力指標
手段的ADL(交通機関を使っての外出、買い物、食事の準備、請求書の支払いなど)、知的能動性(書類を書く、新聞を読む、本・雑誌を読むなど)、社会的役割(友人への訪問、家族や友人からの相談、病人のお見舞いなど)の13項目からなる。
3) DASC-21
認知症のスクリーニングのための21の質問の中に、手段的ADLの買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理、電話、食事の準備、金銭管理が含まれている。

基本的ADLの質問票
1) Barthel Index
整容、食事、排便、排尿、トイレの使用、起居移乗、移動、更衣、階段、入浴の10項目からなる。20点満点で採点する方法と100点満点で採点する方法とがある

2) Katz Index
入浴、更衣、トイレの使用、移動、排尿・排便、食事の6つの領域 のADLに関して自立・介助の関係より、AからGまでの7段階 の自立指標という総合判定を行う。

3) DASC-21
認知症のスクリーニングのための21の質問の中に、基本的ADLの入浴、更衣、排泄、整容、食事、移動が含まれている。

4)FIM
機能的自立度評価表(Functional Independence Measure)の略で、1983年にGrangerらによって開発されたADL評価法である。 特に介護負担度の評価が可能であり、ADL評価法の中でも、最も信頼性と妥当性があると言われ、リハビリの分野などで幅広く活用されている。

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しかし、重症患者・利用者のリハビリテーションに特化したアウトカムは普及していない。

重症患者・利用者の評価は主に医師や看護師のアセスメントで用いられる項目が多い。

血液データ
栄養状態
肝機能
水分摂取量
嚥下状態
皮膚状態
排泄パターン
呼吸機能
循環機能
意識レベル
など・・・・数多くの項目が重症患者・利用者の評価に使われている。

しかし、これらの項目を用いた評価は、もっとも理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が苦手とするところである。

養成校・実習においてこれらの評価を学ぶ機会は非常に少ない。

訪問看護ステーション、療養型病院、サービス付き高齢者向け住宅などの重症利用者に対応している事業所に勤める理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は、上記した項目を評価指標としてリハビリテーションを展開できる能力が必要である。

IADLやADLだけでなく、生命の質やターミナル期の評価がこれからの時代は必須になってくる。

 

 

 

 

 

2018年度診療報酬・介護報酬ダブル改定で予想されることを全部書いてみた

急性期病棟
5:1病棟の創設
7:1病棟の看護必要度の厳格化
7:1病棟の平均在院日数短縮(17日~16日)
7:1自宅等復帰率80%以上
10:1自宅等復帰率60%以上
13:1・15:1病棟の入院基本料減額
DRG/PPS対象の拡大
認知症対応の標準化
退院支援加算の増額と要件強化(プロセス・ストラクチャー評価だけでなくアウトカム評価導入)
ADL維持向上等体制加算の点数増加とアウトカム要件の厳格化
7:1病棟からの直接自宅退院の評価
集中治療室におけるリハビリテーションの評価

回復期病棟
FIM利得率の厳格化
在院日数低下(脳卒中150日・運動器90日)
6単位標準化(9単位を行う場合は特別な条件が必要)
家屋評価・退院前ADL指導・地域連携等の評価料の増額
80歳以上・高ADL・低ADL患者の入院制限要件の強化
施設基準Ⅲの消滅
施設基準Ⅰの要件強化(訪問リハビリテーション事業や通所リハビリテーション事業の必置等)

地域包括ケア病棟
在宅患者からの入院患者の受け入れ評価
低ADL患者の受け入れ評価
在宅復帰率の要件強化(80%)
在宅復帰に向けたシーティング・ポジショニング・福祉機器調整や指導の評価

療養型病床
医療区分の厳格化
特殊疾患病棟・障害者病棟・療養病棟の統合
摂食嚥下障害・排泄障害・循環障害・栄養障害に対するリハビリテーションの評価
在宅復帰のさらなる評価
退院支援加算の増額と要件強化(プロセス・ストラクチャー評価だけでなくアウトカム評価導入)
介護療養型病床の転換先として新たな医療強化型介護施設の新設

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外来リハビリテーション
算定上限日数超え要介護被保険者の外来リハビリテーションの廃止
若年者や回復が望める患者のリハビリテーション算定日数の緩和
消炎鎮痛処置料とリハビリテーション料の要件の厳格化

通所介護
認知症対応・リハビリテーション対応・重症対応していない事業所の単位数低下
生活相談員の要件強化(外部連携の強化や地域資源の発見)
個別機能訓練加算Ⅱの要件強化
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の配置加算
通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションの連携加算

通所リハビリテーション
短時間通所リハビリテーションの増額と要件強化(活動・参加・卒業)
認知症対応・重症対応の加算増額と要件強化
言語聴覚士対応の加算の設置
訪問リハビリテーションとの連携評価
リハビリテーション会議の要件強化(医師の出席要件)

訪問リハビリテーション事業所
活動・参加・卒業の要件強化
地域連携に関する連携加算
重症度対応に対する加算

訪問看護ステーション
PT・OT・STによる訪問看護サービスの回数制限もしくは期間制限(介護保険)
看取りに対する看護・リハビリテーションの評価
活動・参加に関する加算の新設
要支援者の訪問看護サービス料の減額

その他
(看護)小規模多機能型居宅介護と定期巡回・随時対合型訪問介護看護の要件緩和と単位の増加
要介護1と2の単位数の低下
介護老人保健施設の医療費包括化の見直し
特別養護老人ホームにおける訪問看護サービスの要件緩和

 

 

 

 

地域包括ケアシステムの中核であるリハビリテーションの社会化は民間サービスから発展!?

2017年4月より、要支援者の通所介護・訪問介護は「介護予防・日常生活支援総合事業」に移行することが決定している。

先進的な自治体は、様々な仕組みを構築し、介護保険に頼らない高齢者の自立支援に資する活動を始めている。

自治会レベルで体操教室を自主運営している地域
ボランティアや定額時給支給により集った市民による生活援助を行っている地域
社会福祉法人が運営する小規模デイサービスに要支援者が通所する地域
商店街やスーパーなどのスペースを利用して介護予防サービスを提供する地域
などリハビリテーションが生活に近い場面で提供される事例が増えている

しかし、各自治体は、通所介護・訪問介護は「介護予防・日常生活支援総合事業」の移行に、頭を悩ませている。

2016年9月の時点で大阪府下で通所介護・訪問介護を「介護予防・日常生活支援総合事業」に完全移行している自治体は、箕面市・茨木市・大東市のみである。

特に大都市では、様々な障壁が多い。

移行が難しい理由としては
地域資源が乏しい
行政と住民のネットワークが脆弱である
行政にケア・リハビリテーションに関するノウハウがない
財源が乏しい
などが考えられる。

しかし、財務省は要介護2以下が対象のサービスを、「介護予防・日常生活支援総合事業」に移行させ、訪問介護の生活援助や福祉用具の貸与、住宅改修の給付については自己負担を原則とする仕組みに切り替えることを提言している。

また、要支援者への訪問介護とデイサービスも、原則として利用者の自己負担にすべきだとも意見している。

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これが実現するかどうかは定かではないが、医療保険・介護保険に頼らないリハビリテーション関連のインフラが社会に増えていくことは、間違いないだろう。

介護予防
疾病予防
高齢者就業
栄養指導
生活習慣指導
など、リハビリテーションに関するサービスが民間が開発され、行政が委託・注文する形がこれからの新しいケア・リハビリテーションの形になって行くと推測される。

医療保険・介護保険に依存しない健康づくり・生きがいづくりのインフラも思想も不足している日本

これからの将来を担う医療・介護従事者や行政は重大な責任を負っている。