セラピストの職域拡大の視点 ミクロ・メゾ・マクロな働き方

セラピストの職域拡大は、セラピストにとって最重要課題の一つである。

しかし、職域拡大には様々なハードルがあり容易ではない。

ハードルの一つは、セラピストの働き方の選択肢の狭さである。

殆どのセラピストは、医療機関や介護事業所に所属し、利用者に対してサービスを提供している。

所謂、利用者に向き合いながら仕事をするスタイルである。

この働き方は「ミクロ」な働き方に分類される。

実は、働き方には「ミクロ」「メゾ」「マクロ」が存在する(下図)。

ミクロ
利用者に対して一対一で向き合いながら、利用者が持つ課題を解決するための支援を行う
例 一対一の臨床やカウンセリング

メゾ
中小規模の組織を管理して、その組織が持つ課題を解決するための支援を行う
例 通所リハビリテーションの管理・急性期病棟のリハビリテーション部門の管理

マクロ
社会や地域に向き合い、社会や地域が持つ課題を解決するための支援を行う
例 地域全体の認知症対策・リハビリテーションインフラの拡大

aea

「ミクロ」→「メゾ」→「マクロ」の働き方をすればするほど、社会的なインパクトが大きく報酬も大きい。

しかし、「ミクロ」と違い、「メゾ」・「マクロ」ではマネジメントの技術や国の規制の遵守などが求められる。

特に、「マクロ」ではグレーゾーンも多く、ビジネスモデルの構築が難しい。

そのため、「マクロ」で働くためのセラピストへの支援は圧倒的に少ない。

その結果、セラピストの職域が拡大しないと言う悪循環に陥っている。

セラピストの職域拡大のためには、「ミクロ」だけではなく、「メゾ」、「マクロ」という働き方が存在することを認識することが重要である。

執筆者 高木綾一 セミナー講師 株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士 認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士
修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科

セラピスト主導による保険外サービスが少ない事による弊害

診療報酬と介護報酬の単価の頭打ちにより医療法人や介護事業所の売上は頭打ちになっている。

そのため、多角化による事業拡大を模索する医療法人や介護事業所が増えている。

保険外ビジネスとは文字通り、医療保険、介護保険を用いないサービスである。 現在、散見される保険外サービスは以下のようなものがある。

地域のコミュティーカフェ
トレーニングジム

カルチャースクール
家事代行会社
配食サービス
自費リハビリテーション

これらの事業をイチから始める場合もあるが、近年はフランチャイズへ加盟をすることが増えている。

フランチャイズを利用すれば、コストはかかるが経営ノウハウが手に入り、事業リスクを低減化させることができる。

様々なフランチャイズも増えているため、医療機関などの起業が保険外ビジネスに参入することが珍しくない時代になっている。 ea87bcb082925d58877bbbe0e3e85c20_s しかし、残念ながら、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の保険外サービスへの参入はいまだ一般的なことではない。

残念ながら、企業主導で保険外サービス行われており、セラピストの起業による保険外サービスは圧倒的に少ない。

この原因は、セラピストの資本力が少ないなどが挙げられるが、基本的にはセラピストの起業家精神が乏しいことが根本原因だと考えられる。

リハビリテーションによる保険外事業が企業主導で進めば、結局、企業に雇われるセラピストが増えるだけである。

それでは、セラピストの考えるリハビリテーションの実現は厳しいだろう。

セラピストが真に社会に貢献するためには、セラピスト自身による保険外サービスの実現が欠かせない。

執筆者 高木綾一 セミナー講師 株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士 認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士 修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科

評価はできるが治療はできない頭でっかちセラピスト

「理学療法・作業療法・言語聴覚療法では評価が重要だから、評価で問題点を特定出来たら治療手技は何でもいいよ」というセラピストがいる。

評価が重要なことには異論はない。

評価が適切に行わなければ、機能障害は同定できない。

したがって、評価は重要であることは間違いない。

しかし、「治療手技はなんでもいいよ」という発言は治療手技を軽視している。

治療手技が展開できなければ、評価で抽出した機能障害にアプローチできないため、理学療法・作業療法・言語聴覚療法は失敗したことになる。

したがって、治療手技の展開は評価と同様に重要であり、評価と治療手技の間に優劣はない。

時折、高らかに評価結果から機能障害を抽出したことを語るセラピストがいるが、そのセラピストの治療を見ると全くうまくできていないことがある(下図)。


(無断転載禁止)

 

評価は一流・治療は二流ではなく、評価と治療も一流でなければセラピストとして自立しているとは言えない。

したがって、評価技術と治療技術の両方を高度なレベルまで向上させるなければならない。

そのため、施設内、施設外のおける研修会では、評価技術と治療技術の両方をバランスよく受講することが必要である。

また、セラピストは評価技術と治療技術をバランスよく取得しているかどうか?を常に棚下す必要がある。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士
修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科

イラスト提供
福山真樹

理学療法士×イラストレーター
医療・介護等の現場を、医療職種の胸の内まで分かりやすくイラストで伝える。
臨床で勤務する理学療法士だからこそ描ける作品を医療関係者等へ提供し、書籍・学会・福祉機器紹介PV等、様々な場面で用いられている。
問い合わせ先
Facebook https://www.facebook.com/Masaki.Fukuyama.PT
メール  big.tree.of.truth@gmail.com
Twitter  https://twitter.com/PT_Fukuyama
Instagram https://www.instagram.com/masaki.fukuyama

在宅市場の拡大に拍車 2018年度診療報酬改定の余波

2018年度診療報酬改定で入院医療機関から在宅への流れが一層強化された。

急性期一般入院料1では在宅復帰要件が拡大された。

療養病棟や老人保健施設は在宅復帰要件を満たしていることが必要であったが、2018年度改定によりその要件がなくなった。

これにより急性期病院からの退院先を増やすことで、急性期病院の在院日数を短縮を狙っている。

このことから、今後、療養病院や老人保健施設の在宅復帰はより強化され標準化される可能性が高いと言える。

地域包括ケア病棟では、療養病棟や老人保健施設への退院が在宅復帰と認められなくなった。

そのため、地域包括ケア病棟はより一層の居住系施設や自宅への在宅復帰に取り組む必要性が高まっている。

また、療養病棟や老人保健施設は地域包括ケア病棟から紹介がなくなるため、稼働率が低下している事例が散見している。

さらに、2018年度改定は、急性期病院に大きな課題を与えた。

7:1急性期一般入院料を算定する病院では重症度が30%以上と定義されており、そのため、軽症者の早期退院が必要となっている。

つまり、病状が落ち着いてある程度のADLが回復すれば、在宅へ帰るという仕組みが必要となっている状況である。

よって「急性期治療が終われば、リハビリテーションや在宅生活に移行する」という課題の克服が必要である。

したがって、急性期病院は急性期治療&後方連携という総合力が求められる。

別の視点で考えると、介護保険事業所や在宅医療を担う医療機関にとっては大きな機会が到来している。

在宅復帰機能や在宅生活支援機能が高いことをアピールできれば、急性期病院との連携が十分に可能である。

つまり、2018年度改定により、在宅市場のさらなる拡大は確実であり、そこにはリハビリテーション専門職の活躍が欠かせない状況と言えるだろう。

執筆者 高木綾一 セミナー講師 株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士
修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科

既定路線の先には輝かしい未来は築けないセラピスト業界

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の業界は大きなパラダイムシフトを迎えている。

医療から介護への流れ 、そして、自費リハビリテーションや自費ヘルスケアという新しい分野の誕生。

また、近い将来、発展するAI、ロボット、ITを用いたリハビリテーション関連サービス これらの時代の変化は、セラピストの働き方へ大きな変革を与える。

しかし、残念ながらセラピストの働き方に対する教育は不十分ではない。

養成校では従前どおりの医療モデルを中心とした教育が行われ、医療機関では一日18単位を算定することに重きが置かれている。

また、職場で新しい取り組みをしている人は「変わっている人」と思われる風潮がある。 change

セラピストの働き方が変わる風土の醸成には程遠いと言ってよい。

しかし、残念ながら今のまま何もせず働いていると、大きな時代の変化が生じたときに自分の知識や技術がその時代には使えないものとなり、自身の仕事人生が暗転する可能性が高くなる。

既定路線の上を歩けば歩くほど、綱渡りとなるのが今の日本の社会情勢である。

今のセラピストに最も必要なのは危機感である。

危機感はあらゆる行動の源泉になる。

危機感への感度が低いことはこれからの時代は致命傷になる。

あなたの危機感はどれほどであるか?

今、改めて考えてみてほしい。

執筆者 高木綾一 セミナー講師 株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士 認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士 修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科