勤め先の看板が外れても社会で通用する理学療法士・作業療法士・言語聴覚士になっているか?

世の中の95%以上のセラピストは会社に雇用されている。
つまり、自分の能力を勤めている会社に購入してもらい、会社から給与を支払ってもらっている。
では、その能力は自分の勤めている会社以外でも、認めてもらえるだろうか?

日本社会は激変しており、終身雇用の崩壊、企業存続率の低下など労働者を取り巻く環境は一層熾烈を極めている。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士も同様に厳しい環境で働く者が増えており、給与が上がらない、病院が買収された、介護事業所が倒産した、仕事のノルマが厳しいなどの話には枚挙に暇がない。
このような状況において、セラピストはどのように働いていけば良いのだろうか?

エンプロイアビリティという言葉を知っているだろうか?

エンプロイアビリティーには3つの意味がある。

1.所属する組織に雇われ続けるためのエンプロイアビリティ
現在の会社で求められる役割と成果を達成していれば、会社が存続する限り会社に所属することができる。時代変化に応じて会社に必要とされる価値を生み出し続ける能力が必要となる。

2.好条件での転職を可能にするためのエンプロイアビリティ
優れた専門能力を持ち、他の会社でも高い成果をだせるだけの社会に通用する普遍的な能力を持つ人は、好条件で転職や起業をすることができる。

3.やりたい仕事をやり続けるためのエンプロイアビリティ
自分のやりたい分野の能力を確立し、さらにその分野における人脈も形成し、長期間にわたりやりたい仕事を続ける。

これらのエンプロイアビリティを開発していくことが、これからの時代で働くセラピストには重要となってくる。

多くのセラピストは「所属する組織に雇われ続けるためのエンプロイアビリティ」のみを意識しているのではないだろうか?このことすら意識していなければ、論外であり、100%淘汰されるセラピストになる。

確かに、「所属する組織に雇われ続けるためのエンプロイアビリティ」は重要であるが、会社が存続しなくなった時や会社を辞めたくなった時に、このエンプロイアビリティのみだけでは対応できない。

したがって、「好条件での転職を可能にするためのエンプロイアビリティ」と「やりたい仕事をやり続けるためのエンプロイアビリティ」を高めておく必要がある。

わかりやすく言うと、今すぐ会社を辞めても、すぐに働ける場所を確保できるセラピストはこれらのエンプロイアビリティが高いということである。

会社の看板だけで働いていると、自分の看板を作らなくなる。

自分の看板を掲げ、そこに受注が入る仕組みを作ることが、これからのセラピストには求められている。

医療機関や介護事業所にとって無駄な研修は山とある

診療報酬改定、介護報酬改定などの環境変化や事業所収益の低下が生じた時に、必ずと言って、取り沙汰されるものとして、「従業員への教育強化」がある。

接遇が悪いので接遇の教育をしよう
リハビリの質が悪いのでリハビリ部門の研修を強化しよう
介護職員の腰痛が多いので、移乗介助の研修をしよう
などが提案され、外部の研修に参加したり、内部より講師を選び研修が行われる。

研修にはコストがかかる。
外部研修では、参加コストや参加している時間の人件費コスト
内部研修では、会場の電気光熱コスト、講師の人件費コスト、参加者の人件費コスト、講師が研修に費やした時間コストなどが生じる
つまり、研修にコストがかかるということは、本来、研修には費用対効果、時間対効果が求められるということである。

費用対効果、時間対効果を別の表現で現すと、投資活動である。
投資とは「将来の資本を増加させるために、現在の資本を投じる活動」である。
つまり、研修を行うことで明確な資本の増加が必要である。
わかりやすく言うと、研修を行うことで、在院日数が低下する、褥瘡発生率が低下する、職員の離職が低下する、在宅復帰率が増加する、日当円が増加する、再入院率が低下する、稼働率が増加するなどの明確な効果が得られる必要がある。

果たして、多くの医療機関や介護事業所にて、行われている教育研修は資本を増加させているのだろうか?

リハビリテーション部門でよくある研修の形態は以下のものである。
1)セラピストが好きな内容の研修に自由に参加している
2)外部の先生を適当に招致して、研修会を開催している
3)セラピストが自主的に勉強会を開催している
4)研修費を支給して、外部の研修に参加させている
などである。

これらは果たして、医療機関や介護事業所の資本増加に寄与するものであるか?
筆者は多くの研修は無駄であると考えている。
投資効果を得るためには、自社の問題点を明確し、自社の理想と現実のギャップを埋める計画を立案し、その計画を実行するという極めて慎重な活動が必要である。

多くのリハビリテーション部門で行われている上記の研修形態は、計画に基づいた慎重な活動ではないし、自社の問題を中心に置いたものでもない。
多くの研修は理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の個人の価値観やスキルを重視したものである。

セラピストや介護職に不足している技術や知識=自社の課題   にはならない

多くの事業所は研修を行うことが目的となっており、投資という本質的な目的を忘却している。
そのため、投資効果の低い研修ばかりを行っている。

企業がコストをかける以上、それは投資である。
研修は、あくまでも企業価値を上げるために存在しているのである。

「難しい」と「不可能」が混同している職場には未来がない

何か、職場で新しいことに挑戦しようとすると「それは難しいなぁ」、「やってもいいけど難しいと思うよ」という言葉が周囲から出てくる。

そして、その「難しい」という言葉は、いつしか、絶対できない、つまり、「不可能」という言葉に置き換わる。

そもそも、業務改善や組織改革は「難しい」ことである。「易しい」ことであれば、誰でもすぐに取り組める。

「難しい」ことであるから、誰も取り組まなかった。そのために、業務は非効率となり、組織風土も悪くなったのである。

「難しい」を連呼する人は、「難しい」という言葉を数多く並べることで、業務改善や組織改革に関する取り組みが不可能であるという印象操作を狙っている。

賢明な人であるならば、「難しい」という言葉を連呼するのではなく、「難しい」という理由を、様々な要素に分けて分析・解説し、その行動の実現可能性について真摯に検討をするものである。

医療・介護業界は度重なる法改正や社会変化により、月単位で様々な業務改善が必要となっている。

しかし、現実的には業務改善や組織改革の取り組めず、経営の危機に陥っている医療機関や介護事業所が少なくない。

「難しい」と連呼することには意味がない。

「難しい」は「不可能」ではない。

「難しい」からこそ、やる意義があるのだ。

It is difficult,maybe. But, not impossible!!

 

将来の希望が持てない医療機関・介護事業所の職場は、いずれ崩壊する

みなさんの職場には将来の希望があるだろうか?
希望とは「将来の明るい見通しを指して用いる言葉」である。
将来の希望の持てない職場は恐ろしい現象が生まれる。

将来の希望が持てない職場では
有能な社員が辞めていく
そして
組織や社会への社会貢献や自身のキャリアアップなどを考えない社畜キャラが残っていく

社畜とは、会社に飼い慣らされてしまい自分の意思と良心を放棄し奴隷(家畜)と化したサラリーマンの状態を揶揄したものである(ウィキペディア)。

ではなぜ、職場には将来の希望が必要なのだろうか?
それには、動機付け理論の一つである期待理論が関係する。
期待理論とは「どこまで努力をすればよいかが明確になっており、さらに達成した目標の成果が魅力的であれば、モチベーションが高まり、目標達成の可能性が高くなるという理論」である。

現在、医療・介護情勢は混沌としている。
急性期・回復期・生活期のリハビリテーションにおいても、求められる能力や成果が急激に変化している。そのような状況では、医療機関や介護事業所は自社のもつリハビリテーションサービスに関する課題を解決してくれるモチベーションの高い理学療法士、作業療法士、言語聴覚士を必要としている。

しかし、理念の形骸化、人事制度の不備、上司との人間関係の悪さ、組織の風通しの悪さが存在する職場では、「どのような努力をどれぐらいすれば、どれぐらい魅力的な評価や報酬が得られるかが、わからない」ことが多い。

期待理論に従えば、そのような希望の持てない職場では、従業員のモチベーションは向上しない。従業員のモチベーションが上がらなければ、医療機関や介護事業所が抱える経営的課題を解決することができず、最悪、経営が破綻する。

将来の希望の持てる職場を作ることは、まさに管理職の仕事である。

この職場では、このような努力を、これぐらいの量を行い、これぐらいの目標を達成すれば、あなたの人生にとってこれぐらいの成果があるということを部下や同僚に明示することが管理者の仕事である。

そういった導きができない人は、これからの時代の管理者には不適当である。

貴方の職場には将来の希望があるか?
貴方は部下に将来の希望を与えているか?

 

回復期リハビリテーション病棟9単位の厳格化が及ぼす影響はデ・カ・イ。

2015年12月2日に中央社会保障医療協議会(中医協)にてリハビリテーションの個別事項に関する協議が行われた。リハビリテーション分野に関して、厳しい意見が多く出たが、とりわけ「回復期リハビリテーション病棟の9単位取得悪用論」が注目された(図1)。

2015年12月2日中医協発表資料図1 2015年 中央社会保険医療協議会資料

一言で言うと、9単位の必要性が疑わしい症例に9単位のリハビリテーションを提供している、9単位と6単位以下のリハビリテーションを比較すると、ADLの変化があまり変わらない病棟も多い・・・。とのことである。よって、次期診療報酬改定では9単位を厳格化し、6単位を基本とするとの議論が進んでいる。

2006年に9単位が緩和された時、脳卒中患者への一日3時間のリハビリテーションが効果的であるとの論文やデータが提示された。回復期リハビリテーション病棟では、ADLの回復をいち早く促すことがリハビリテーション医療の役割であると定められた。
しかし、時は過ぎ、日本経済の低迷、社会保障費の増大、少子化の改善の見込みがない状況が継続し、財源確保の目処が立たなくなると、9単位取得に対する懐疑的な意見ができた。

今回の中医協の議論は、9単位を有効に活用するための制度設計を考えるのではなく、9単位の不要論や悪用論が目立つ。つまり、エビデンスが確保されている治療法であっても、財源の確保や医療の効率性が議論の優先順位として高くなると、その治療法は採用されることはないということである。

今後、回復期リハビリテーション病棟で9単位が認められず、6単位が上限になった場合、急性期や慢性期における取得単位数に大きな影響を及ぼすと考えられる。回復期リハビリテーション病棟は文字通り、最大限の機能回復を図るリハビリテーション医療を提供する病棟である。その病棟が最大6単位ということになると、他の病棟が6単位を標準的に算定できる可能性は低い。

実は、リハビリテーション提供単位の削減に関しては、密かに多くの制度設計がなされている。
急性期病棟にはADL維持向上体制加算というリハビリテーションが包括された加算
慢性期病棟には標準算定日数を超えた人が入院しているため、月13単位の対象者が多い
2014年度からは地域包括ケア病棟が新設され、2単位が標準となっている。

これらの背景を考えると急性期、慢性期において現状認められている6単位が、今後厳格化される可能性は極めて高い。診療報酬で単位数を限定しなくても、レセプトの査定で一律に厳格化するなどの動きが今後は考えられる。つまり、回復期リハビリテーショ病棟の9単位の厳格化は他の病棟におけるリハビリテーション医療の萎縮につながる可能性は高い。

回復期リハビリテーションの9単位をどのように運用していくのかについてリハビリテーション業界は真摯に議論し、9単位の制度を維持する方向性も探るべきである。それが、他の病棟におけるリハビリテーションの萎縮医療を防ぐことになる。