組織は目的を達成するために存在する 

組織は目的を達成するために存在する。
目的がなく集まっている集団は単なる群集である。
群集には共通の目的がないので、各人が自己の目的のために行動する。
したがって、永遠に組織の目的が達成されることはない。

今の医療・介護業界を取り巻く環境は年々厳しさを増している。社会保障費が増大し、人口が減少が著しい2050年までは、医療・介護業界に求められる社会的使命は質と量ともに増していくばかりである。
社会から求められる使命に応えることができなければ、組織は社会に潰され、淘汰されていく。

在宅医療の推進、認知症への対応、急性期病院の機能強化、リハビリテーションの社会化、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の多様な職域での活躍、要介護者の生活の質の向上など多くの社会的な課題を解決することが、組織には求められている。

しかし、今の医療・介護従事者に社会的課題の解決や社会的使命を意識して働いている人がどれほどいるだろうか?

自身の給料や自己満足の充足感のみを得るために働いている人が多くはないか?
今の時代、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、薬剤師などの医療・介護関係職種は国の規制緩和により量産される時代である。
量産により、養成校偏差値の低下、教育の質の低下、卒業生の能力の標準偏差増大等が生じることは容易に想像できる。

能力が低い、あるいは、社会的使命を理解していない医療・介護関係職種が増えれば増えるほど、社会問題は解決されずに社会保障費だけが増大していくという負のスパイラルが繰り返される。

組織は目的を達成するために存在する。
あらゆる社内外の活動はそのことを達成するために存在する。
今一度、この原点に立ち返り、組織を運営しなければ、今から10年以内にその組織は淘汰される可能性が高い。

経営・運営の基本はトップダウン その先にボトムアップがある

経営・運営は責任ある立場の人の意志によって行われる。
その意志とは理念・ビジョン・志である。
その理念・ビジョン・志を組織というインターフェースを通じて社会において実現することが経営であり、運営である。

従業員満足や従業員の働きやすさが最近の経営論や労働法制では注目されている。
確かに、それらの要素は重要であり、経営や運営において軽視することはできない。

しかし、ここに大きな落とし穴がある。
従業員満足や働きやすさを実現させるために従業員からの意見や要求を集めるボトムアップを行うことで、様々な意見や価値観が顕在化し、その後の経営や運営が難しくなるという負のスパイラルに陥る組織が多い。

本来、組織とは目的を持った集団である。
目的を達成するために集められた人で構成するのが組織である。
従業員も目的を達成するために自らの意思で集っているのが組織である。
つまり、経営者、運営者、従業員は全員同じ目的を持っているのが組織である。

同じ目的を持っている組織のボトムアップは負のスパイラルに落ち込むことはない。
そのような組織のボトムアップでは目的を達成するために必要な意見や提案が下から上がってくる可能性が高い。

しかし、同じ目的を持っていない従業員で構成されている組織でボトムアップを行うとどうなろうだろうか?
組織の目的など気にせずに、自分のやりたいことや価値観について言及する可能性が高い。あるいは、不満を持っている従業員は組織を転覆させてやろうと思う人もいるかも知れない。

理念やビジョンは組織にとって、最重要の経営資源である。
この経営資源を生かすも殺すも、経営者、管理者からの情熱的なトップダウンである。
情熱的なトップダウンに共感してくれる仲間を一人も多く採用し、育てていくことこそ、組織の本質である。
トップダウン経営か?ボトムアップ経営か?という質問は愚問である。
なぜならば、「トップダウン&ボトムアップ」でなければ、健全に経営や運営はできないからだ。

介護報酬、診療報酬改定という時代の変化が定期的に訪れる医療・介護業界において、ボトムアップのみの経営や運営は成り立たない。

今こそ、「トップダウン&ボトムアップ」を意識する時である。

2016年度診療報酬改定の動向 地域医療構想が大きな原則論を作り上げる

2016年度診療報酬改定の議論が本格化している。

2015年10月21日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、次期診療報酬改定に関して以下の方針が確認された。

改定の狙い
1)患者の状態に応じた評価
2)チーム医療の推進
3)勤務環境の改善
4)診療所などの主治医機能(かかりつけ医機能)の確保
5)退院支援
6)医療介護連携
7)医歯薬連携
8)大病院の専門的な外来機能の確保

充実すべき項目
1)緩和ケアを含む室の高いがん医療
2)「認知症施策推進総合戦略」を踏まえた認知症患者への適切な医療
3)難病患者への適切な医療
4)救急、小児、周産期医療

効率化・適正化項目
1)後発医薬品の使用促進・価格適正化
2)長期収載品の評価の仕組みの検討
3)残薬や多剤・重複投薬を減らすための取り組み
4)早期の在宅復帰の推進▽重症化予防の取り組み

2016年度改定は2018年度診療報酬・介護報酬のダブル改定に向けた布石であり、2018年度診療報酬改定に対応するためにも重要な改訂であると言える。この改定に乗り遅れた場合、2018年度改定では経営的な致命傷を負う可能性が高い。

特に、改定の狙いである1)~8)に対して既存の医療機関が取り組みを怠った場合、2018年度以降取り返しのつかない状態になる。
1)~8)の項目は2000年当初より進めてきた医療機関の機能分化・連携政策がブラッシュアップされている項目であり、これらの項目を基準として医療機関の淘汰が行われる。

1)患者の状態に応じた評価は、改定の一丁目一番地であり2025年問題や地域包括ケアを推進するために、厚生労働省も財務省も何がなんでも実現をしたい項目である。
各ステージで診るべき患者を明確し、圧倒的多数の患者を慢性期医療・在宅医療・在宅介護で対応したいという思惑があり、この考えを推進するために様々な原則や施策が検討されている。

現在の診療報酬改定の原則の一つとして急浮上しているのが地域医療構想である。
地域医療構想は二次医療域で将来必要となるベット数を定めて、それをもとに病床を削減、もしくは増加させるものである。ただし、日本の多くの地域は病床過剰と判断されており、基本的には削減が目的とされた政策である。
削減に向けた議論をするためには、各医療機能を定義する必要があり、そのひとつの基準として、患者一人あたりに必要とされる医療費が検討されている(図1)。
一人あたり医療費図1 医療機能ごとの境界を規定する医療費
※入院基本料とリハビリテーション料は除外されている
厚生労働省資料

つまり、高度急性期は一日3000点以上、急性期は600点以上、回復期は225点以上、在宅等は225点未満の医療費が必要な患者(入院基本料・リハビリテーション料は除く)を診るべきであるという定義である。

この定義に基づくと、急性期病床、療養病床、在宅医療に関して課題が浮き彫りになってくる。

日本は急性期病床が過剰であり、多くの急性期病床が高度な急性期患者に対応しておらず、回復期や慢性期に近い患者の対応を行っている現状がある。国による病床規制が明確に行われず、民間医療法人が多いことが、機能不全に陥った急性期病床を多く生み出したと言える。
今後、急性期機能を保持するためには、一日当り3000点、600点を生み出せるマーケティング活動、医療従事者確保、退院先確保、救急機能確保などが重要であり、これらの要素を満たせなければ、急性期機能を諦めることになる。

療養病床は2017年度末に、介護療養病床と看護職員、看護補助者25:1の医療療養病床が廃止される。つまり、今後は20:1の医療療養病床が標準的な施設基準となる。
医療療養病床が「医療療養」として意義をもつためには、「医療」で対応するべき患者を診ているかという視点が重要になってくる。
現在、医療区分に関する見直しが検討されており、2016年度改定では医療区分の厳格化が行われる予定である。より重症で医療必要度の高い患者すなわち、医療区分2.3の患者が入院していなければ、診療報酬上不利になる可能性が高い。とくに、一日あたりの医療費用が225点未満の患者が多く入院している療養病床は、在宅医療等と同じステージと見なされ、著しく入院基本料が減額されると予想される。

在宅医療に関しては、一日当り225点未満の医療費の患者が多い。しかしながら、在宅医療は軽症から重症な患者が幅広く存在しており、診療上、必要な手間や対応などが異なる(図2.図3)。これらの観点から、「患者の疾患・状態に応じた評価のあり方と、診療頻度に応じた評価のあり方を、どう 考えるか」について議論が行われている。次期改定では「継続的な医学管理が必要な処置」(人工呼吸器の使用、悪性腫瘍)、「長期に渡る療養が必要な疾病」(スモン、悪性腫瘍)などについて、診療報酬上、評価される可能性が高い。また、今後は訪問診療だけでなく、訪問看護、訪問リハビリテーションに関しても重度化評価が進んでいくと考えられる。

診療区分

図2 訪問診療対象者の医療区分
医療区分1が4割を占める
中央社会保険医療協議会 総会資料 平成27年5月27日
訪問診療 区分図 3 訪問診療の医療行為について
中央社会保険医療協議会 総会資料 平成27年5月27日

 

 

 

 

 

 

理想と現実が違うなら、理想を求めて行動を起こせば良い

「理想と現実は違う。だから、その理想を追い求めることは困難だ。」

医療・介護のコンサルティングをしているとこのような趣旨の言葉が経営者や管理職の口から度々飛び出す。

この言葉の真意は、「理想と現実はあまりにもギャップがあるので、そのギャップを埋めることは困難だ。だから、そんなことは諦めたほうが良い」であると推察される。

しかし、よく考えてみて欲しい。いつの世も理想と現実は違う。「その時代に存在する現実に対しての理想」がいつの世も設定される。その理想を追求することが、人間がもつ力であり英知である。

今の世の中は、昔に創造された理想に満ち溢れている。 車、電車、飛行機などの交通インフラ、食糧事情、住宅、学校、医療、介護サービスなど一昔前にはすべて、理想であった。

「理想ばかり語ってはダメだ」とよく聞く。
確かに、理想だけを語り、行動を起こさないのは罪だ。
そんな理想は机上の空論である。
しかし、理想がなければ行動も語れない。

冒頭の「理想と現実は違う。だから、その理想を追い求めることは困難だ。」には、別の意味が含蓄されている。
「何が理想なのかわからないので、理想を語ることができません」
「理想はわかっているのだが、行動を起こすことができない。そうであれば理想は語らない方が体裁が良い」という意味も含んでいる。

昨今の医療・介護事業には常に、理想と現実のギャップがつきまとう。
診療報酬、介護報酬の改定は常に新しい理想を経営者や管理職に突きつける。

もし、経営者や管理職が理想を追い続ける姿勢を失ったらならば、それは医療・介護事業を放棄したものと同じである。

あるべき姿である理想を捨てた経営者や管理職は、名ばかり経営者・管理職である。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のステークホルダーはなんだ?

ステークホルダー
利害関係者
消費者(顧客)、従業員、株主、債権者、仕入先、得意先、地域社会、行政機関であり、自身との関係の中で、利害が発生する間柄であること。

あらゆる職種にはステークホルダーが存在する
当然、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医師、看護師、薬剤師・・・・にステークホルダーが存在する。
多くの医療・介護従事者は、利害関係者を患者や利用者と認識している。
これは正しい。
サービスを直接提供する相手である患者や利用者は、サービスの提供に対し対価を支払う関係であることから間違いなく利害関係者である。

しかし、患者や利用者のみが利害関係者であると考えるのは、間違っている。
医療・介護従事者にとって利害関係者は、多様に存在する。
例えば、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士にとって、医師やケアマネージャーは間違いなくステークホルダーである。

医師やケアマネージャーの指示や計画により、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は自らの任務を果たすことが出来る。その任務の成否は、医師やケアマネージャーの任務にも影響を与える。いわゆる一人の患者や利用者の運命に影響を与える共同体として関係である。
したがって、医師やケアマネージャーにとっても、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士はステークホルダーである。

ステークホルダーを考えることができない医療・介護従事者は多い。
特に職人肌の職種ほどステークホルダーに対する視野が狭い。
職人は、自分のこだわりの実現や自分特有の作品に対する指向性が強い。
したがって、ステークホルダーに対する視野が狭い傾向がある。

しかし、今の世の中は、ステークホルダーとの連携や拡大が評価される時代である。
組織や社会の課題を解決することが、より評価される現代では、ステークホルダーを特定し、重要視できない人は、淘汰される可能性が高い。

職人肌の職種の持っている技術・知識は、間違いなく組織課題や社会課題の解決に有用なものである。
職人の持っている能力を組織や社会に還元するためには、ステークホルダーを今一度整理し、そのステークホルダーにどれほど貢献できているのか?を検討する必要がある。

理学療法・作業療法・言語聴覚療法・看護・介護も手段であり、目的ではない。
その目的はステークホルダーと共有している組織や社会課題の解決である。