老人保健施設 VS 回復期リハビリテーション病棟

老人保健施設の復権が全国的に始まった。老人保健施設の在宅復帰の取り組みが加速している。その加速に弾みをつけたのは、新設された在宅復帰に関する施設基準であった。

在宅強化型老健
・在宅復帰率が50%を超えていること
・ベッドの回転率が10%以上であること
・要介護度4または要介護5の利用者が35%以上であること

在宅復帰・在宅療養支援機能加算算定施設
・在宅復帰率が30%を超えていること
・ベッドの回転率が5%以上であること

現在、在宅強化型老健が全体の12.4%、在宅復帰・在宅療養支援機能加算を算定している老健が25.7%となっている。(全国老人保健施設協会の調べ)。在宅復帰に力を入れる老健は確実に増えており、今後の介護報酬改定でもさらなる政策的な誘導により、増加してくと考えられる。

これほどまでに老人保健施設の在宅復帰への取り組みが進んでいる理由は、老人保健施設の経営に対する危機感や人材のポテンシャルの高さと考えられる。老人保健施設の在宅復帰機能が今後さらに高まっていくことになれば、回復期リハビリテーション病棟と機能的な「バッティング」が生じることになる。

現在、回復期リハビリテーション病棟は三段階に分かれている。
回復期リハビリテーション病棟ⅡとⅢはⅠと比較して、アウトカム要件が低く設定されている。
今後の診療報酬改定により人材や医療プロセスにおけるアウトカム要件が高く設定されている回復期リハビリテーション病棟Ⅰが回復期リハビリテーションの標準モデル化していく。これまでの「はしごをはずす手法」を考えると、このことは容易に想像できる。したがって、回復期リハビリテーション病棟のⅡとⅢは存在意義について問われる時期が近づいている。

回復期リハビリテーション病棟Ⅰを算定できている施設は30%以下であり、残り70%は今後の生き残りをかけた戦略が必要である。(下図 回復期リハビリテーション病棟協会発表資料)

回復期リハ

このような状況において、老人保健施設の在宅復帰機能が高まっていくことになれば、回復期リハビリテーション病棟ⅡとⅢの機能を、老人保健施設が担い、回復期リハビリテーション病棟ⅡとⅢは、地域包括ケア病棟や在宅医療へシフトが求められる可能性がある。

現在進められている地域医療構想や政府の病床削減の意向を考えると、老人保健施設に回復期リハビリテーションの一部の機能を担わせる可能性は十分に考えられる。

老人保健施設は長年、「第二の特別養護老人ホーム」、「特別養護老人ホーム化の類似施設」と揶揄されてきた。しかし、ここにきてその存在意義が復権しようとしている。

理学療法士・作業療法士のキャリアは確実に激変する

理学療法士・作業療法士が、将来、過剰供給になる。この話は業界内にて定説になりつつある。政府統計にて2043年より、高齢者の絶対数は低下していくと予想されている。2050年前後に、団塊ジュニアが後期高齢者を迎えた時に、日本の高齢者向けビジネス市場は萎縮していく。

しががって、このまま何もしなければ理学療法士、作業療法士だけでなく、医療・介護関連職種は供給過剰となり、多くの人が職を失うことになる。漫然として迎える2040年に、理学療法士や作業療法士の未来は決して明るくない。

では、この状況をどのようにすれば打開できるだろうか。
筆者が従来から述べているように、リハビリテーションは今後、社会化が進んでいく分野である。
現在は、医療、介護保険という規制ビジネスの中で90%以上の理学療法士・作業療法士が働いているが、今後は公的保険を財源としない介護予防、高齢者が住みやすいまちづくり、行政職、企業や地域のヘルスコンサルタント、自費の健康増進事業、パーソナルセラピスト、海外のヘルスケア事業などリハビリテーションが進出することは間違いない。
自由主義経済である日本では飽和した市場から次の市場に経営資源が移動していくことが許されている。他の産業分野も、そのような状況を繰り返して、日本ならでは高品質の商品やサービスを生み出している。例外なく理学療法士・作業療法士もそのようになる。
むしろ、公的団体・機関(職能団体や厚生労働省)がそのような状況を支援できる体制を構築できていない。そのため、卒前・卒後教育に一切、リハビリテーションの社会化にまつわる話が出てこない。

しかし、ここに来て業界要人が理学療法士・作業療法士のキャリアに関して、従来と異なった意見やコメントを発言するようになってきた。名前は伏せるが、以下がそのコメントである。

上位資格を充実させていく
言語教育を導入して社会貢献できるセラピストを養成する
将来の少子化にむけたセラピストの方向性を考える理学療法の社会化が必要だ
多くのステークホルダーに対応できる理学療法が必要だ
健康増進、予防、学校保健に取り組む教育や起業のための制度づくりが必要だ

これらのコメントが公に発言されることが10年前に誰が予測できただろうか?
ついに、療法士のワークシフトの時代が始まった。
10年後は今の非常識が常識になっている。

 

在宅医療・介護事業におけるリーダーシップやマネジメントは病院や診療所よりはるかに難しい

日本の医療・介護分野の在宅シフトは待ったなしである。病床削減、在宅復帰要件の導入、地域包括ケアシステムの推進、訪問看護ステーションや看護小規模多機能型居宅介護などの在宅インフラの整備は急進的に進んでいる。
一方で、順調に進んでいないものがある。
それは、在宅医療や介護を営む事業所のリーダーシップやマネジメントのレベルアップである。

在宅医療や介護は、外部との連携によりサービスが展開されることが多い。したがって、病院や診療所より、ステークホルダーが多い事業である。そのため、多くのステークホルダーとの利害関係の調整が必要であるため、ハイレベルなリーダーシップやマネジメントが求められる。

また、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、介護福祉士、薬剤師、管理栄養士などは、病院や施設で働くことを前提とした教育カリキュラムを受けており、現在の労働者の中で在宅の実習などを経験している人は少数派である。

日本は欧米と異なり、医療機関に勤める医師、看護師、セラピストが多く、在宅分野が医療関係者のキャリアデザインの選択肢にすら入っていない状況が未だに続いている。

そして、在宅医療や介護保険ビジネスは比較的、利益率が高いことに加え、病院や診療所を経営するより、参入障壁が低いことから、理念と利益のバランスを求めない利益至上主義の民間事業者や医療関係者が多く参入しているのが実情である。

在宅医療や介護は
1)利害関係者が多い事業形態
2)従業員のキャリアデザインとして在宅分野が確立されていない
3)理念を無視した利益追求型の経営母体が多い
これらのことから、在宅医療や介護事業所の運営は一筋縄ではいかない。

そのため、国は近年の診療報酬改定や介護報酬改定で、在宅医療や介護の分野に「マネジメント」の概念を導入し、マネジメントの成否が事業所の収入に直結する仕組みを推進している。

通所・訪問リハビリにおける「リハビリテーションマネジメント加算」「リハビリテーション会議」
通所リハビリにおける「生活行為向上リハビリテーション実施加算」「社会参加支援加算」
通所介護における「3ヶ月に一回の在宅訪問」や「個別機能訓練加算Ⅱ」
訪問介護における「生活機能向上連携加算」
訪問看護における「退院時共同指導加算」
これらはすべて、事業所の前方連携・後方連携・水平連携を求めるものであり、リーダーシップやマネジメント能力がなくては、円滑に行うことが困難である。

しかし、発想を変えれば、リーダーシップやマネジメント機能を発揮することができれば、在宅医療や介護事業では、他の事業所より圧倒的な競争優位性を得られる時代になったと言える。

 

 

セルフマーケティングなき医療・介護従事者の未来は明るくない

マーケティングは1.0から4.0まで存在している。マーケティングの大家であるフィリップ・コトラー氏が下記のようにそれぞれのマーケティングを定義している。

マーケティング1.0
出来るだけ安く、高品質な製品を企業が一方的に広告宣伝を行い販売を強化する

マーケティング2.0
「製品を売ること」から「消費者が何を望んでいるか」という考えに基づき、消費者からの声を反映することを意識し、企業と消費者の総方向性のコミュニケーションを行う

マーケティング3.0
マーケティング2.0の精神である消費者満足を引き継ぎつつ、「どんな社会をつくりたいか」を念頭においた活動を行う。企業には社会課題の解決を目的として、具体的な行動が求められる。

マーケティング4.0
顧客の自己実現を叶えることに主眼をおく。IT社会が加速して、人の存在が薄れる社会であるため、人の存在感をより満たす商品やサービスが求められる。

現在、医療・介護業界においてもマーケティング3.0と4.0が求められている。日本社会は超高齢化・少子化・財政難・地方消滅などの問題を抱えており、それらの問題に対峙するマーケティング3.0の考えが重要視されている。
また、今後10年~20年後に余剰人員が出現する看護師、理学療法士、作業療法士等にとって自分たちの存在確立は極めて重要なテーマである。また、高齢化社会では、高齢者の尊厳や希望を保証することも重要なことである。したがって、マーケティング4.0に基づく商品やサービスが求められる。

現在、多くの看護師、理学療法士、作業療法士等の医療・介護従事者はマーケティング1.0と2.0の範囲で立ち止まっていないだろうか?給料が低いことを受け入れて、ただ、そこで目的もなく働き続けるというマーケティング(1.0)、目の前の患者のニーズを満たすために、一生懸命にサービスを提供するマーケティング(2.0)。現在、これら2つのマーケティングは、一般的に行われており、そこで評価を受けた人は、何らかの形で報酬を得ている。

しかし、これら2つのマーケティングが立ち行かなくなる時代に突入している。医療・介護職が、今後、市場で評価されるためにはマーケティング3.0と4.0を実践するセルフマーケティングを行う必要がある。

自分という商品がマーケティング3.0と4.0を通じて市場で評価される仕組みを自分自身の手によって構築する必要がある。

皆さんは現在どのマーケティングの段階ですか?

 

行動のみが仕事や人生を変える

どれだけの知識や経験を語っても、それは人を説得する材料にはなりえない。
最大の説得力は、行動することである。行動し続けている事実は、周りの人間を納得させるパワーを有する。

理想や夢に向かって動く時、応援してくれる人ばかりが周りにいるわけではない。嫌みを言う人、陰口を叩く人、あなたのことを妬む人、過去の事例を取り上げて失敗を予想する人・・・・。多くの非応援者があなたの周りにもいるだろう。
しかし、理想や夢に向かって行動し続けることで、新しい自分との出会い、素晴らしい人物との出会い、そして、金で買えない経験や感動を得ることができる。これらの素晴らしいことに出会えることを考えれば周囲のあなたへの批判などどうでもよい類の話である。

行動すれば必ず、何らかの結果がフィードバックされる。しかも、行動の大きさや深さによって結果も正比例して跳ね返ってくる。仕事や人生に面白さはここにある。座して待っていても状況は変わらない。それどころか、悪くなるのが今の時代である。自分に変化がなくても、社会情勢が変化しているため、相対的に退化してしまう。

医療・介護業界は2年から3年に一回、大きな制度改定があるため、行動をしない人への風当たりが強い。現在は2025年に向けた地域包括ケア構築プロセスの大改革時代である。そのため、病院、診療所、介護保険事業所への風当たりは戦後以来、もっとも強い時期である。さらに、その風当たりは、そこで働く従業員、すなわち専門職へ向けられる。

このような時代を乗り切り、将来、生き残る理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師等になるためには、今、行動をしなければならない。過去の知識や経験の能書きを垂れるのでなく、新しい未来に向かって新しいキャリアビジョンを描き、それに向かって行動をすることのみが、現状の仕事や人生を変える。

行動のみが仕事や人生を変える。