医療・介護現場は「マネジメント人材」が圧倒的に不足している

医療・介護マネジメントは、いまや極めて複雑化している。

昨今の急激な外部環境変化に伴い、マネジメントの守備範囲はますます多岐にわたっている。

人口構造の変化、電気料金や物価の高騰、専門職市場の需給バランスの崩れ、診療報酬および介護報酬のアウトカム志向への転換、医療訴訟、未収金、クレーム対応、行政や保健所の監査強化、同業者の増加、さらには突発的な災害への備えと対応など、多くの課題が同時に顕在化している。

これら多様な課題に的確に対応できる人材は決して多くない。

医療・介護分野は、その特性上、専門家の集合体であるがゆえに、自身の専門領域以外に関心を持たない者が大半である。

しかし、だからといって外部から専門家を招き、現場対応を委ねたとしても、医療介護現場特有の文化や仕組みへの理解が浅く、思うようなマネジメント成果は得られない。

事業運営という観点において、医療・介護事業所においてもキャッシュフロー改善は最重要課題である。

現金、すなわち即時に使える資金を十分に確保しているか否かは、事業の安定性を大きく左右する。

キャッシュを増やすためには、利益を上げること、原価を抑制すること、売掛金を最小限にとどめること、適切な負債活用を行うこと、無駄な資産を保有しないことが重要である。

つまり、利用者や患者を増やし、質の高い治療とサービスを提供し続け、固定費を見直し、保険収入に依存せず自費収入を確保し、借入なども有効活用し、全ての資産を売上へ転換させる姿勢が求められる。

しかし実際は、医療・介護職が取り組んでいるのは「適切な治療やサービス提供」のみであり、その他の要素は事務部門任せとなっている場合が多い。

現場の理解や協力が不足していれば、組織全体として好循環は生まれない。

医療・介護マネジメントの複雑化は、専門職の孤立を生み出す。

しかし、それは裏を返せば、専門職の視点を持ちながら総合的なマネジメント力を身につける者にとって、大きな成長と市場機会を得るチャンスである。

いま、専門職から総合職へと進化できる人材こそが、最も必要とされる時代である。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。

地域包括ケア病棟と地域包括医療病棟の違いと今後の役割 〜リハビリ現場で求められる対応とは?

2014年度の診療報酬改定により、地域包括ケア病棟が新設された。

当時、この病棟は急性期治療後の患者や在宅からの直接受け入れを想定し、一定の在宅復帰率を満たす厳格な要件が設定されていた。

その結果、医師、看護師、リハビリ専門職、ソーシャルワーカーなど、多職種が連携し、短期間で在宅復帰を目指す体制を構築することが求められた。

リハビリテーション医療も出来高から包括評価へと移行し、部分最適ではなく全体最適の観点でチーム医療を行うことが重視されるようになった。

限られた単位数の中で最大限の効果を発揮するため、精度の高いアセスメントと単位配分の最適化が求められたのである。

地域包括ケア病棟の設立により、急性期病棟、回復期リハビリ病棟、療養病棟との棲み分けも進み、患者の状態や回復段階に応じて適切な医療提供が行われる体制が整備された。

この結果、医療資源の効率的な活用と患者の早期在宅復帰が促進された。

一部の地域包括ケア病棟においては、回復期リハビリテーション病棟を超えるアウトカムが報告され、これが制度全体の包括化をさらに促進する兆しとなった。

包括化が進めば、医療保険領域におけるセラピスト需要は減少し、余剰人材が介護保険領域へ流れるという見通しも当時から指摘されていた。

これらの動きは、病院組織内のマネジメントや人材戦略、さらにはセラピストのキャリア形成にも大きな影響を及ぼしたのである。

そして2024年度、地域包括医療病棟が新設された。

この病棟は、急性期を終えた高齢者や救急患者を受け入れ、短期的に治療継続および医療的調整を行うことに特化した病棟である。

生活再建支援を軸とする地域包括ケア病棟とは異なり、地域包括医療病棟は「治療継続型」として、より医療ニーズの高い患者を支える役割を担う。

今後、両者の棲み分けは一層明確となり、「生活再建型」の地域包括ケア病棟と「医療継続型」の地域包括医療病棟をいかに活用するかが、医療機関経営の大きな鍵となる。

今後は、地域全体の医療・介護資源をいかに有効活用できるかが重要であり、病棟単位での成果のみならず、地域連携や在宅支援体制の強化が課題となる。

特に、地域包括医療病棟の運用開始に伴い、病院は自院の役割を見直し、患者層に応じた受け入れ方針やチーム体制の再構築が求められる。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
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関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

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中間管理職に求められる役割葛藤との向き合い方

「役割葛藤」とは、自分に対して期待されていることが、他の利害関係者にとってはマイナスとなる時に生じる葛藤を指す。

たとえば、上司から「稼働率を上げろ」と指示を受ける一方で、現場は人手不足で無理を強いることになる場合、中間管理職として大きな葛藤を感じることになる。

中間管理職は多くの利害関係者との間で調整を担う立場にあるため、このような役割葛藤に陥るリスクは常に高い。

組織が崩壊に向かうのは、往々にして中間管理職のマネジメントが機能不全に陥った時である。

上司に対してイエスマンとなり現場を混乱させる
現場の不満ばかりを上司に伝えるだけのリーダーになる
上司と現場の板挟みとなり何も行動できなくなると

このような状況になると組織は硬直し、意思決定が遅れ、方向性が見えなくなる。

では、こうした事態をどう防げばいいのか。

大切なのは、自分自身の意見をしっかり持つことだ。

誰にも「正解」はわからない。

他人の意見に振り回されず、自分なりの仮説や推測をもとに判断することが重要である。

そして、現状や今後の見通しについて正確な情報を、上司にも現場にも提示し続けることも役割葛藤を和らげる一助となる。

時には上司をコントロールする視点も必要だ。

さらに、全力で尽くしても周囲が協力してくれない場合は、「誰がやっても同じ」と割り切り、相手の理解力不足と捉えて開き直ることも大切である。

役割葛藤が思考停止を生むことはあるが、その原因の一端は自分自身にあることを自覚しよう。

役割葛藤を乗り越えることができれば、中間管理職としての能力は最大化され、組織全体もより強くなる。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

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著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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医療・介護人材に求められるマーケット感覚 — 環境依存と自己中心からの脱却

他人や社会から期待されることばかりに基準を合わせて仕事をすると、やがて「環境の奴隷」となる

環境の奴隷を続けていると、自ら考える力が徐々に麻痺し、次第に「環境に従うことこそ自分の意思である」と錯覚してしまうのである。

環境の奴隷は、自らの心に制御をかけ、指示されたことだけを淡々とこなすようになる。

当然ながら、そこには主体性がなく、工夫や改善への関心も薄れる。

その結果、与えられた作業はこなせても、作業以上の価値を提供することはできない。

一方で、医療・介護業界には、環境の奴隷とは逆に「アーティスト化」した個人事業主も存在する。

彼らは自分の興味関心にのみ従い、組織やチームの中で協調することを苦手とする。

好きなことに没頭する姿勢は悪くないが、誰からも必要とされないことに価値は生まれない。

自身のやりたいことだけに関心を持つ者は、現代医療に求められるチーム医療、地域包括ケア、医介連携などに関心を示さず、対応できる能力も備えていないのが現実である。

ゆえに、好きなことが他者や社会から必要とされるものであるかを見極める「マーケット感覚」がなければ、変革期を迎えている医療・介護の世界において価値を生み出すことは難しい。

環境の奴隷とアーティスト化した個人事業主は、医療・介護業界において蔓延しているが、どちらも時代に適応できない存在である。

これからの医療・介護分野で人材として価値を提供できるかどうかは、このマーケット感覚を持つか否かにかかっていると言ってよい。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
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単独型訪問リハビリは必要か?制度化をめぐる現状と展望

訪問リハビリステーションの創設は、現場の療法士や一部の業界関係者から期待されているテーマのひとつである。

しかし、2027年度の介護保険改定においても大きな議題には上がっておらず、国政レベルでの具体的な動きは見られていないのが現状だ。

過去に、復興特区や一部地域で単独型訪問リハビリテーション事業所の運営が行われているものの、全国的な制度化が実現するかどうかは全く未知数である。

現状では、訪問リハビリテーションは訪問看護ステーションに併設される形で提供されることが一般的である。

訪問看護師、療法士、ケアマネージャーが日常的に情報共有し、迅速な意思疎通を図ることができるため、地域包括ケアシステムのなかで有機的な連携が取りやすい構造となっている。

療法士が単独で開業できる仕組みは、職能を守り、より専門的なサービスを追求できる可能性を秘めている。

しかし、独立事業所として訪問リハビリステーションを設置した場合、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所との連携は事業所間の関係となり、縦割り組織の弊害が生まれやすい懸念もある。

むしろ、同一事業所内に看護師・療法士・介護職が在籍している環境のほうが、ケアマネージャー等の外部関係者との調整もスムーズであり、現場レベルでの問題解決が迅速に行えるメリットがある。

どの制度にも必ず利点と欠点は存在する。

しかし、重要なのは個別最適や業界都合にとらわれず、地域全体・利用者全体にとって最適となる視点を常に忘れないことである。

制度議論はその視点で進められるべきだろう。

療法士の専門性発揮と職域拡大は重要である一方で、医療・介護の現場では多職種連携が不可欠である。

訪問リハビリステーションが制度化される場合、個別事業所としての独立性と、地域包括ケアにおける統合性のバランスが課題となるだろう。

制度設計は現場の声を反映しつつ、縦割りを生まない柔軟な連携体制をどう構築できるかが鍵となる。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
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医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
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