リハビリテーションは、単に「機能回復」や「動作訓練」にとどまるものではない。
本質的には、その人が再び社会の中で役割を持ち、参加し、自分らしく生きることを支援するものである。
しかし現状、多くのリハビリテーション専門職は、医療機関内という枠の中に閉じこもりがちである。
ベッドサイドでの介入や入院患者への関わりに集中し、「退院後の生活」や「社会参加」という視点を十分に持てていない場合も少なくない。
だが現代社会において、本当に必要とされるのは「生活全体を支える視点」である。
例えば、一人の家族が病気や障害を持った場合、収入の減少、介護負担の増大、家族関係の変化、住環境の問題など、次々に課題が表面化する。
高齢者のみならず、働く世代、子育て世代、さらには学生においても、心身や環境上の問題が生活そのものに波及するケースは増えている。
こうした課題に対して、現行の公的支援制度や福祉システムは決して十分とは言えない。
また、民間サービスもまだ整備されておらず、多くの人が「どうして良いかわからないまま」時間だけが過ぎ、深刻化してから問題に直面するのが現実である。
本来、リハビリテーション専門職はこれら生活課題に介入できる存在であるべきである。
リハビリテーションは、身体機能や動作訓練に限らず、生活の質向上や社会参加、そして地域全体の活性化にもつながる重要なアプローチである。
例えば以下のような分野にも、リハビリテーションの視点は必要である。
このように考えると、リハビリテーションが活躍できるフィールドは無限に広がっている。
問題は、多くの専門職がその可能性に気づかず、医療機関や介護現場の中にとどまっている点にある。
現代社会においては、リハビリテーションは「治療」という枠を超えて、生活、地域、社会を支える存在であるべきである。
セラピスト自身がその枠を超え、新たな領域に挑戦していくことで、市場は拡大し、社会からの必要性も高まる。
逆に言えば、視野を狭めたままでは、自身の職域も、業界そのものも先細りしていくことは避けられない。
これからの時代は、リハビリテーション専門職が「地域の課題解決者」として、企業や行政、教育現場など多方面で関わる姿勢が求められる。
障害者や高齢者だけでなく、すべての世代が持つ生活上の課題に寄り添い、「より良く生きる」を支える存在となるべきである。
その第一歩として、まずは医療や介護の枠に縛られない発想と行動が重要である。
リハビリテーションの視点で社会を見ることができれば、まだまだ取り組めることは数多く存在する。
市場を広げることは、自身の未来を広げることでもある。
今こそ、リハビリテーションに携わる者は、その可能性を信じ、新たな一歩を踏み出すべきである。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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