「やってみないとわからない」がキャリア開発の基本である

筆者は理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の人から多くのキャリアに関する相談を受ける。

今の時代に働くセラピストは自身の将来に大きな不安を抱えており、キャリア開発への焦りを持っている人は多い。

しかし、相談者は二つに分類される。

それは、「失敗したらどうしよう」タイプと「やってみないとわからない」タイプである。

概ね、前者が8割、後者が2割である。

そして、筆者より色々助言をしても「失敗したらどうしよう」タイプの人が、キャリア開発のために具体的な行動を起こすことは少ない。

しかし残念ながら、そもそも、失敗のないキャリア開発など存在しない。

キャリアと言うのは、失敗を積み重ねる中で自分の価値観や技術が研ぎ澄まされていく過程で明確になっていくものである。

優秀なセラピストほど、「失敗したらどうしよう」タイプが多い。

非常に優れた技術や学術的知識を持っている人ほど、失敗を恐れる。

彼が口々に、「自分の技術を最高に高めてから外に飛び出してみます」とか「もっと学術的な検証を十分にしてから現場に伝えていきます」とかの類の話である。

しかしこれだけは、断言できる。

ビジネス的な思考で考えると
最高な技術
検証を十分にした学術
など永遠に訪れない

むしろ、未熟な知識や技術を市場に投入して、エンドユーザーからの反応や市場の普及具合を材料に技術や知識の研鑽をしていくことでより、「Better」なものになっていく。

そう、「やってみないとわからない」のだ。

そもそも、リハビリテーションの現場では、患者や利用者には「やってみないとわからない」精神でサービスを提供することが多い。

歩けるかどうかはやってみないとわからない
立てるかどうかはやってみないとわからない
買い物に行けるかどうはやってみないとわからない

やってみて、初めて課題が浮き彫りになり、そこに新たな介入を行っていく。

このようなことを生業にしているセラピストが「失敗したらどうしよう」と言うのは本末転倒である。

キャリア開発には様々な手法はあるが、最も重要な原理原則は「やってみること」である。

ぜひ、自分のキャリアに不安を持っているセラピストはこの原理原則を実践してほしい。

 

 

 

 

毎年2万人近く増えるPT・OT・STの雇用を医療保険・介護保険分野で生むことはできない

PT・OT・STが毎年2万人。

10年で20万人

20年で40万人

今より増えることになる。

一方で、直近の医療・介護分野においては
回復期リハビリテーション病棟数の鈍化
回復期リハビリテーション病棟の取得単位数制限
地域包括ケア病棟におけるリハビリテーション料の包括化
訪問看護ステーションからのセラピストの訪問を反対する勢力の存在
要支援者の日常生活支援総合事業への移行
通所リハビリテーション利用日数制限への流れ
などのセラピストの雇用が制限される制度改定や議論が行われている。

また、社会保障費は増える一方であり、リハビリテーションに関する費用の圧縮も当然検討される。

つまり、増え続けるセラピストの雇用の場が安定的に供給される状況が未来にはないことが容易に想像される。

今後は潜在理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が大量に生まれる可能性が高い。

資格者数が増えると潜在資格保有者が増える。

これは歴史が語っている。

潜在看護師は71万人
潜在歯科衛生士は15万人
潜在薬剤師は9万人

アウトカム志向が強くなる
年収の増加が期待できない
仕事内容が高度化してくる
女性の就業率が高くなる
などの状況と資格保有者増加が重なれば、必ず潜在資格保有者は増える。

しかも、2042年に高齢者の数はピークを迎え、その後、高齢者は減っていく。

国内市場の医療・介護の市場は縮小していくことが目に見えている。

このような状況を認識したうえで、PT・OT・STは自らのキャリアを発展させなければならない。

しかし、残念ながら多くのPT・OT・STは自身に降りかかる環境の変化さえ知らない。

病院の院長
介護施設の経営者
養成校の教員
リハビリテーション部門の管理者
はPT・OT・STの雇用が大変厳しくなる現実を学生・従業員にしっかりと伝えるべきである。

高い給料がもらえる、将来に渡り安泰であるという根拠のない甘い言葉で、セラピストのモチベーションを高めるのは詐欺行為である。

今こそ、現実を直視し、セラピストは自らのキャリアをデザインする時期である。

 

 

 

 

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・柔道整復師・鍼灸師・パーソナルトレーナーの仁義なき戦い

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・柔道整復師・鍼灸師・パーソナルトレーナーの資格価値の下落が止まらない。

これらの資格保持者の年収、時給、福利厚生は下がる一方である。

資格価値の下落の主な原因は資格保持者数が増加の一途をたどっており需要と供給のミスマッチである。

各職種の供給が過剰となっていることから、各々の業界における競争が一段と激しくなっている。

各職種の競争が激しくなると、それぞれの職種は他領域へ市場機会を求めて参入をしてくる。

現在、次のような他領域への参入事例が認められる。

柔道整復師がフィットネスクラブでパーソナルトレーナーとして働く
理学療法士が摂食嚥下リハビリテーションを提供する
作業療法士が基本動作と応用的動作のリハビリテーションを提供する
パーソナルトレーナーが脳卒中患者やTHA術後患者の運動指導を行う
鍼灸師がターミナル患者に対してターミナルケアを行う
言語聴覚士が呼吸リハビリテーションを提供する
理学療法士・作業療法士が子供向けフィットネスジムを経営する
柔道整復師がデイサービスでリハビリテーションを提供する

このように、治療系コメディカルの仁義なき戦いが巷では既に起こっている。

高齢者数が2042年でピークを迎えることや治療系コメディカルの過剰供給が加速することを考えると、益々、領域を跨いだ仁義なき戦いは激しくなる。

益々、資格そのものが持つ価値は薄くなり、ビジネスパーソンとしての社会への価値提供が労働市場での優位性を示すことになるだろう。

もはや、ライバルは自分と同じ資格を持つものではなく、他の資格を有する者である。

そこには、共存共栄という「キレイごと」は通用せず、純然たる競争が存在する。

他職種の参入を阻止できる能力はあるか?

他領域に参入できる能力はあるか?

この2つの能力が必須の時代が近づいている。

 

独立してよいタイミング

40歳近くになってくると自身のアイデンティティが確立し、仕事において自分の夢や希望を実現する働き方を希望するようになる。

40歳前後というのは仕事の経験や人脈も蓄積し、独立することも可能となる年齢である。

全ての行動に責任を持ち、仕事や人生を自分自身の判断でハンドリングしていく働き方は、環境変化が激しいこれからの時代にふさわしい選択でもある。

独立にはリスクもあるが、相当な魅力があることも確かである。

独立をするために必要な要件は、先述したようにアイデンティティの確立、経験や人脈の蓄積であるが、もう一つ大切なものがある。

それは、会社の看板を外れた時の自分のブランド力である。

自分のブランド力を確認する方法は次のような方法がある。

専門学校から学生への講義依頼
行政からの介護予防に関する講演依頼
上司や上席者から依頼された対外的な仕事
などの自分に対して依頼されたものが、自分と言う個人に来たものなのか?それとも会社という看板に対するものなのかを判断する方法である。

もし、会社と言う看板に来たのではなく、自分という個人に依頼されたのもであればブランド力は着実に高まっていると言えるだろう。

多くの人は会社のブランドにぶらさった状態で仕事をしている。

しかし、社会環境が不安定な時代においては、会社のブランドに依存するのではなく、個人のブランドを高めておくことが労働市場を勝ち抜く上では重要である。

独立をするタイミングは、個人のブランド力が高まっていることを実感できるタイミングであると言えるだろう。

独立を考えている人は、今一度、自分のブランド力を確認することをお勧めする。

戦略なきセラピストのキャリアデザインは成功率が低い

PT・OT・STは他の医療職と比較して、自己研鑽に非常に熱心な職種である。

筆者はセミナー事業をしているので、このことを良く実感する。

また、大手出版会社の調査によるとPT・OT・STの一人当たりの書籍購入は他の職種を大きく上回るそうだ。

しかし、自己研鑽のための論文執筆、学会発表、セミナー参加は手段であり、目的ではない。

目的は、「なりたい自分になること」「社会的価値の創出」「組織への貢献」「対外的評価の向上」などであり、自己研鑽はそのための手段にしか過ぎない

手段を目的に活かしていくためには、キャリア戦略が必要である。

キャリア戦略とは

目的-現状=戦略

と言える。

 

つまり、目的と現状のギャップを埋める方法を考えることがキャリア戦略である。

優れた戦略をとるためには次のようなことに留意する必要がある。

人生の目的を明確に定める
自分のやるべき仕事の範囲を明確に定める
どの業界で働いていくかを決定する
目的とする業界で働いていくためにどのような能力が必要であるかを定める

例えば、以下のようなものが戦略として優れていると言える。

人生の目的:在宅リハビリテーション分野の第一人者になる
仕事の範囲:学術と臨床
どの業界:在宅ターミナル患者
どのような能力:フィジカルアセスメント・内科系疾患・呼吸循環機能・摂食嚥下・ポジショニング

やみくもに、論文執筆・学会発表・セミナー参加をするのではなく、キャリア戦略を立案することが大切である。

そのためには、業界の動向、自分の価値観、キャリアの種類、能力開発に必要な手段などに関する情報収集を行う必要がある。

そして、さらに大切なことは「自分自身の仕事や人生をどのようにしたいのか?」ということを考える時間を確保することである。

つまり、キャリア戦略を立案・実行するにも知識や技術が必要であるということだ。

しかし、ほとんどのセラピストはキャリア戦略のための知識や技術を学んでいない。

キャリア戦略なき自己研鑽は、仕事や人生の投資にならずに、不良債権となる。

自己研鑽に熱心なセラピストほど今すぐキャリア戦略を再考しなければならない。