資格だけでは食えない時代にどう生きるか

医療・介護・健康関連の資格価値は、今まさに深刻なデフレーション局面にある。

かつて「資格を取れば食っていける」という時代は確かに存在した。

だが、今やそれは幻想に過ぎない。

日本は世界有数の高齢社会であり、医療・介護・健康分野の資格保有者は年々増加の一途をたどっている。

資格は飽和し、職能間の競争は激化している。

加えて、長引く経済低迷により、公的保険制度を支える財源は逼迫している。

国は医療・介護費の抑制を前提とした制度設計を進め、診療報酬や介護報酬の改定も「縮小均衡」が常態化している。

つまり、国家予算という“財布”が小さくなる中で、いくら資格を持ち、知識や技術を磨いても、それに見合う報酬が支払われる保証はどこにもない。

それでもなお、多くの医療・介護従事者は「資格さえあれば安泰だ」と信じて疑わない。

もしくは、現実に気づきながらも悲観し、現場での疲弊に甘んじている。

だが、時代が求めているのは“資格保有者”ではなく、“社会に価値を生み出す実践者”である。

資格の持つ真の価値は、特定の領域で専門性を発揮することにとどまらない。

医療・介護・健康領域は、異分野からの参入が難しい構造を持つ一方で、その知識や経験を他分野へと展開する力を有している。

すなわち、専門職は「参入障壁」と「越境的応用」の両方を備えているという点で、極めて優位な立場にある。

とはいえ、資格に過度に依存すればするほど、その優位性は失われていく。「

資格さえ取ればよい」という考え方は、自らの可能性を資格という枠に閉じ込める危険性を孕んでいる。

これこそが「資格取得のジレンマ」である。

このジレンマを乗り越えるには、資格を“目的”ではなく“手段”と捉え直し、自らの知識や経験を通じて社会課題を解決する姿勢が求められる。

もはや“資格に守られる時代”ではない。

「価値を創り出す人材」が報われる時代である。

医療・介護・健康の現場で働くすべての人に、いま一度問い直してほしい。

自らの資格は「社会にとって、どのような価値を生んでいるのか」と。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。

判断と決断の違い ― 現場に必要なのは「動かす力」である

「判断」とは、物事の是非や状況を見極め、自らの考えを定める行為である。

一方、「決断」とは、判断を踏まえて選択肢の中から一つを選び、責任をもって実行に移す行為である。

この二つは混同されやすいが、意味合いも役割も大きく異なる。

判断はできても、決断しない人が多い

医療・介護現場では、問題点を見極め、一定の判断は下しているものの、
・その実行を他者に委ねる
・上層部の指示を待つ
・あるいは決断自体を先送りにする
といった「決断回避」の傾向が散見される。

たとえば、「連携が不足している」「看護部門の協力が得られない」「経営陣が現場を理解していない」といった声はよく聞かれる。

しかし、これらの問題について「では、あなたは何を決断するのか?」と問うと、
「決断すべきことは特にありません。ただ、現状に不満があります」と返されることが多い。

決断を避ける者に成長はない

このような姿勢は、変化を起こす機会を自ら手放しているに等しい。

判断しかせず、決断を下さない人材には、以下の特徴がある。

  • 責任を取ることを避ける

  • 現状維持を好み、変化を恐れる

  • 自らの意志を示さず、他者の評価に依存する

結果として、キャリアは停滞し、収入は上がらず、組織内での存在感も薄れていく。

極端に言えば、企業の“永続的労働力”として使われ続けるだけの存在となる。

チーム医療・介護の誤解

多職種連携が叫ばれる中、「チーム医療」や「チーム介護」を、単なる「情報共有の場」だと誤認しているケースは少なくない。

しかし、真に機能するチームとは、判断を持ち寄る場ではなく、決断に向けた意思を統合する場である。

単なる意見交換に終始していては、何も動かない。

チームの本質は、

  • 各職種が責任ある決断を持ち寄り

  • それをぶつけ合い、

  • 実行可能な方向へまとめていく
    という意思決定のプロセスにある。

判断のみに長けたチームに価値はない。
価値を生むのは、決断と行動である。

決断こそが現実を変える

判断は出発点にすぎない。

決断して初めて、物事は動き出す。

判断と決断を混同している限り、仕事は「理解しているが、変わらない」ものとなる。

だが、覚悟を持って決断すれば、現場の景色は確実に変わっていく。

いま、医療・介護現場に求められているのは
判断者ではなく、決断者である。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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プレゼンティーズムが企業を蝕む──健康経営が未来を守る

働きながら身体的・精神的な不調を抱える労働者が、近年ますます増加している。

少子高齢化が加速し、労働人口が減少するなかで、健康を損ないながらも働き続ける人々の存在は、企業や社会にとって重大なリスクとなっている。

たとえ職場に出勤していても、本来のパフォーマンスを発揮できずに生産性が著しく低下している状態──これを「プレゼンティーズム」という。

目立たないが深刻なこの問題は、経営層や人事部門が軽視できるものではなく、企業の収益性や競争力を左右する重大な経営課題である。

精神的な不調としては、うつ病や不安障害、燃え尽き症候群が代表的である。

これらのメンタルヘルスの問題は、本人すら自覚がないまま深刻化することが多く、職場での支援が遅れる原因となる。

一方、身体的な不調としては、腰痛や肩こり、膝痛など慢性的な痛みが挙げられる。

これらは労働意欲の低下のみならず、集中力や判断力の低下を招き、業務効率を著しく損ねる要因となる。

これらの不調が積み重なれば、やがて長期休職や離職という結果に至り、企業にとっては人的資本の流出という重大な損失となる。

これらの課題を解決し、誰もが安心して働き続けられる社会を実現するためには、企業自らが「健康経営」を戦略として位置づける必要がある。

健康診断や産業医の配置など、従来型の健康対策だけでは不十分であり、より踏み込んだ健康増進プログラムの導入が不可欠である。

特に高齢化が進む現代においては、シニア世代の労働者に対して、運動習慣の定着や職場での身体活動の促進、さらにはリハビリテーションの視点を取り入れたプログラムが必要とされる。

これにより、健康の維持だけでなく、労働意欲の向上や就労の継続が期待できるのである。

現在の日本では、健康増進を担う主なプレーヤーはスポーツクラブや健康食品業界である。

しかしながら、こうした業界は主に健康な人々を対象としているにすぎない。

これからは「予防医学」の観点を強化し、すでに不調を抱える層や、疾病予備軍とされる人々に対する介入が重要となる。

その中心的な役割を担うのが、医療・介護現場で経験を積んだリハビリテーション専門職である。

彼らが積極的に関与することで、医療費の抑制と労働生産性の向上という二重の効果が得られるはずである。

今後の予防市場は、果たして誰が主導権を握るのか。

健康増進分野の専門家であろうか。医療・リハビリテーションの専門職であろうか。

それとも、医療と健康の境界を越えて活躍する「バウンダレスキャリア」の人材であろうか。

共存共栄という理想論だけでは語れない、熾烈な市場争奪戦がすでに始まっている。

予防・健康づくり市場は、今後の10年でさらなる転換期を迎えることは間違いない。

そして、いまこそ私たちは問わねばならない。

制度改革を待つだけではなく、現場から未来を切り拓く覚悟を持てるのか。

その答えは、他ならぬ私たち自身の手に委ねられているのである。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
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著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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医療・介護職の収入問題と主体性の関係性

医療・介護の現場において、セラピスト、介護職、事務職の給与水準は依然として低いままである。

実際、手取りで15万円から30万円程度の職員が多数を占めているのが現状である。

では、給与は誰が上げてくれるのか。
国であろうか。
院長であろうか。
施設長であろうか。
行政であろうか。

確かに制度的な支援や経営者の意識改革も必要ではある。

しかし、本質的に自らの収入を高められるのは、他の誰でもなく「自分自身」である。

思い出してほしい。

小学校や中学校の頃、野球やサッカー、武道などのスポーツでレギュラーメンバーに選ばれるために、どれほど努力を重ねたか。

何の準備も努力もせずに選ばれた者は、特別な才能を持つか、親の影響力を使えるごく一部の者だけであった。

多くの者は、チームが必要とするポジションを見極め、その役割に求められる技術、体力、精神力を磨いてレギュラーの座を勝ち取ったはずである。

にもかかわらず、なぜ介護福祉士やヘルパー、理学療法士、作業療法士になった途端、「給料が上がらない」と嘆くのか。

給料とは「上がるもの」ではなく、「上げるもの」である。

自らの専門性を磨き、現場での信頼を築き、職場やチームにとって不可欠な存在となる。

そのような積み重ねこそが、自身の価値を高め、収入向上へとつながるのである。

現状を嘆くより、未来を創る行動を選ぶべきである。

給料は、待っていても上がらない。

自分の手で上げるものなのだ。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
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リハビリテーションの視点を医療機関内に留めず、社会全体の課題解決に活かすべきである

リハビリテーションは、単に「機能回復」や「動作訓練」にとどまるものではない。

本質的には、その人が再び社会の中で役割を持ち、参加し、自分らしく生きることを支援するものである。

しかし現状、多くのリハビリテーション専門職は、医療機関内という枠の中に閉じこもりがちである。

ベッドサイドでの介入や入院患者への関わりに集中し、「退院後の生活」や「社会参加」という視点を十分に持てていない場合も少なくない。

だが現代社会において、本当に必要とされるのは「生活全体を支える視点」である。

例えば、一人の家族が病気や障害を持った場合、収入の減少、介護負担の増大、家族関係の変化、住環境の問題など、次々に課題が表面化する。

高齢者のみならず、働く世代、子育て世代、さらには学生においても、心身や環境上の問題が生活そのものに波及するケースは増えている。

こうした課題に対して、現行の公的支援制度や福祉システムは決して十分とは言えない。

また、民間サービスもまだ整備されておらず、多くの人が「どうして良いかわからないまま」時間だけが過ぎ、深刻化してから問題に直面するのが現実である。

本来、リハビリテーション専門職はこれら生活課題に介入できる存在であるべきである。

リハビリテーションは、身体機能や動作訓練に限らず、生活の質向上や社会参加、そして地域全体の活性化にもつながる重要なアプローチである。

例えば以下のような分野にも、リハビリテーションの視点は必要である。

  • 高齢者や障害者が安心して暮らせる住環境整備

  • 働く世代の腰痛や肩こりなどの障害予防と健康教育

  • 子どもの発達支援と保護者支援

  • 企業内での健康経営や職場改善コンサルティング

  • 自治体や地域団体との協働によるバリアフリーまちづくり

このように考えると、リハビリテーションが活躍できるフィールドは無限に広がっている。

問題は、多くの専門職がその可能性に気づかず、医療機関や介護現場の中にとどまっている点にある。

現代社会においては、リハビリテーションは「治療」という枠を超えて、生活、地域、社会を支える存在であるべきである。

セラピスト自身がその枠を超え、新たな領域に挑戦していくことで、市場は拡大し、社会からの必要性も高まる。

逆に言えば、視野を狭めたままでは、自身の職域も、業界そのものも先細りしていくことは避けられない。

これからの時代は、リハビリテーション専門職が「地域の課題解決者」として、企業や行政、教育現場など多方面で関わる姿勢が求められる。

障害者や高齢者だけでなく、すべての世代が持つ生活上の課題に寄り添い、「より良く生きる」を支える存在となるべきである。

その第一歩として、まずは医療や介護の枠に縛られない発想と行動が重要である。

リハビリテーションの視点で社会を見ることができれば、まだまだ取り組めることは数多く存在する。

市場を広げることは、自身の未来を広げることでもある。

今こそ、リハビリテーションに携わる者は、その可能性を信じ、新たな一歩を踏み出すべきである。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
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