質の悪い理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が全く淘汰されない業界は異常である

理学療法士 12,000人以上
作業療法士 5,000人以上
言語聴覚士 1,500人以上

合計18,500人のセラピストが毎年、誕生している。

今から、10年間で185,000人、20年間で370,000人が今より増加することになる。

大阪府医療計画、日本経済新聞で理学療法士の過剰供給が指摘され、厚生労働省では理学療法士・作業療法士の需給調整関する議論が始まっている。

地域包括ケアシステムは、医療の在宅シフトを進め、病床を削減し、在宅の軽度者に対するリハビリテーションは、自助・互助の概念により人件費をかけない方法が推進されている。

高齢者数のピークは2043年であり、その後は全世代に渡り未曽有の人口減少に突入する。

どう考えても、日本では理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の働く場所は少なくなる。

職域拡大が叫ばれているが、そもそも国家財政難時代の医療保険・介護保険分野における職域拡大にも限界がある。

民間ビジネスをするしても、人口が減少していくのだから市場はどんどん縮小していく。

しかも、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の資格は業務独占をしていないため、お互いの仕事を奪い合う関係にある。

所謂、雇用の共食いがあり得るのだ。

実際、
理学療法士で摂食嚥下リハビリテーションの専門家
作業療法士で歩行を含めた基本動作の専門家
言語聴覚士で食事動作の専門家
など、専門性を超えたハイブリッド型セラピストが世の中は沢山誕生している。

セラピストの過剰供給
国家財政難
市場の縮小
雇用の共食い
の四重苦により、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の雇用の場は必ず減少する。

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筆者が知っている医師は、2000年当初からセラピストを大量雇用して医療事業を大成功に導いた。

ある日、筆者がその医師に対して「これだけセラピストを採用していて、2030年頃に一気にセラピストの需要がなくなったり、リハビリテーションの診療報酬が一気に下がったらどうするのですか?」と質問した。

医師の回答は
「全員、リストラしかないでしょ」
とのことだった。

この話を聞いて、
なんて医師だ!ひどい奴だ!
と思う人もいれば、
このようなことを想定して、絶対に勝ち残れる圧倒的実力をつけるんだ!
と思う人もいる。

どちらのほうが、セラピストとして健全であるかは言うまでもない。

ラーメン屋も
アパレル関係も
歯科医院も
コンビニも
牛丼屋も
全部、過剰供給である。

しっかりと、マーケティングを行い、実力をつけた企業だけが生き残るだけである。

資本主義の日本で、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士だけ、「雇用を守ってください!」というのは厚かましい話である。

理学療法・作業療法・言語聴覚療法のエンドユーザー患者や利用者の立場になれば、「良質な理学療法・作業療法・言語聴覚療法を受けたい!質の悪いセラピストは淘汰をしてほしい」というのは、至極、当たり前の話である。

むしろ、質の悪い理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が淘汰されるという自浄作用をセラピストは有するべきである。

質の悪いセラピストすら淘汰できないセラピスト業界に未来はない。

 

 

 

 

重症患者・利用者の評価ができないセラピストが干される時代へ

近年の医療保険・介護保険に関する改定のトレンドの一つは、「重症対応」である。

リハビリテーション分野に関しても「重症対応」が進んでおり、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は「重症者へのリハビリテーション技術」を獲得しなければならない時代になってきた。

急性期病棟や回復期リハビリテーション病棟の重症患者の受け入れ
療養型病院の医療区分の厳格化
訪問看護ステーションの特定疾患やターミナル患者への評価
などは、そこに勤めるセラピストに「重症対応」という課題を突き付けている。

2006年の疾患別リハビリテーション料、算定日数上限
2008年の回復期リハビリテーション病棟へのP4P
は、「著しい回復が見込める患者に対する効果判定」を行うものであった。

しかし、2012年以降の診療報酬・介護報酬改定は「重症対応」を推進したため、リハビリテーション関係職種は回復期過程の患者・利用者だけでなく、重症な患者・利用者への対応が必要となってきている。

回復過程の患者の評価についてはすでに様々な手法が開発されている。

手段的ADLの質問票
1) Lawtonの尺度
電話をする能力、買い物、食事の準備、家事、洗濯、移動の形式、服薬管理、金銭管理の項目からなる。
2) 老研式活動能力指標
手段的ADL(交通機関を使っての外出、買い物、食事の準備、請求書の支払いなど)、知的能動性(書類を書く、新聞を読む、本・雑誌を読むなど)、社会的役割(友人への訪問、家族や友人からの相談、病人のお見舞いなど)の13項目からなる。
3) DASC-21
認知症のスクリーニングのための21の質問の中に、手段的ADLの買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理、電話、食事の準備、金銭管理が含まれている。

基本的ADLの質問票
1) Barthel Index
整容、食事、排便、排尿、トイレの使用、起居移乗、移動、更衣、階段、入浴の10項目からなる。20点満点で採点する方法と100点満点で採点する方法とがある

2) Katz Index
入浴、更衣、トイレの使用、移動、排尿・排便、食事の6つの領域 のADLに関して自立・介助の関係より、AからGまでの7段階 の自立指標という総合判定を行う。

3) DASC-21
認知症のスクリーニングのための21の質問の中に、基本的ADLの入浴、更衣、排泄、整容、食事、移動が含まれている。

4)FIM
機能的自立度評価表(Functional Independence Measure)の略で、1983年にGrangerらによって開発されたADL評価法である。 特に介護負担度の評価が可能であり、ADL評価法の中でも、最も信頼性と妥当性があると言われ、リハビリの分野などで幅広く活用されている。

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しかし、重症患者・利用者のリハビリテーションに特化したアウトカムは普及していない。

重症患者・利用者の評価は主に医師や看護師のアセスメントで用いられる項目が多い。

血液データ
栄養状態
肝機能
水分摂取量
嚥下状態
皮膚状態
排泄パターン
呼吸機能
循環機能
意識レベル
など・・・・数多くの項目が重症患者・利用者の評価に使われている。

しかし、これらの項目を用いた評価は、もっとも理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が苦手とするところである。

養成校・実習においてこれらの評価を学ぶ機会は非常に少ない。

訪問看護ステーション、療養型病院、サービス付き高齢者向け住宅などの重症利用者に対応している事業所に勤める理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は、上記した項目を評価指標としてリハビリテーションを展開できる能力が必要である。

IADLやADLだけでなく、生命の質やターミナル期の評価がこれからの時代は必須になってくる。

 

 

 

 

 

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の間違った専門性の解釈は、リハビリテーションの効果を減弱させる

リハビリテーション関連職種やリハビリテーション医療を行う医療機関・介護事業所の増加により理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が一緒に働く機会が増えている。

筆者のクライアント先のほとんどで医療機関や介護事業所でも、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が一緒に働いている。

小生が理学療法士になった2000年初頭では、三職種が一緒に働いている職場は非常に珍しく、多くの職場では理学療法士のみが働いているというのが一般的であった。

そのため、昔と比較して、理学療法だけでなく、作業療法、言語聴覚療法も提供できるようになったため、医療機関や介護事業所のリハビリテーションの機能は上がっていると考えられる。

しかしながら、大きな問題が顕在化しつつある。
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それは、「理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の間違った専門性の解釈」である。

一人の患者に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が担当する場合、セラピスト間で患者に関する情報を共有することが一般的である。

しかし、多くの医療機関や介護事業所では、「各職種の専門性に関する情報」を共有することが多い。

例えば、嚥下障害が大きな問題である患者に関する、申し送りを行った場合に以下のような申し送り内容になることはないだろうか?

理学療法士:座位保持が延長しており、覚醒状態も改善しています
作業療法士:上肢を用いて、スプーンで口に食物を運ぶことができるようになってきました
言語聴覚士:食事中、誤嚥の回数が減ってきており、食事時間も短縮しています

このような申し送り内容は、意味はないとは言わないが、リハビリテーションの効果を高めるのは難しい。

なぜならば、各申し送り内容は「嚥下障害」にフォーカスを当てたものではなく、療法士自身の「専門性」にフォーカスを当てているものだからだ。

「嚥下障害」がなぜ起きるのか?ということに対して理解がないため各職種は自身がわかる範囲のこと(自身の専門性)について述べるしかできない結果、「嚥下障害」の改善に役に立つ情報を提供することができないと言える。

嚥下を阻害する座位アライメントの変化や今後の改善の見通し
食事動作時の体幹・頚部アライメントの変化や上肢機能と嚥下の関係
誤嚥の回数が低下した機序の分析と座位・食事動作の関連

などについて各職種が述べることができれば、「嚥下障害」に対する各職種の介入が円滑に進みやすくなる。

理学療法士だから基本動作
作業療法士だから応用動作
言語聴覚士だから摂食嚥下

という枠組みを超えて、基本動作・応用動作・摂食嚥下に共通する普遍的な生理学・解剖学・運動学を治療に応用できるセラピスは、真の意味で専門性を発揮していると言える。

 

 

 

「長時間労働の是正」が医療・介護現場のマネジメントに与える影響

2010年代になってから、「ワークライフバランス」が推進され長期間労働は「悪」であるという意識が日本国民の中に生まれている。

また、安倍政権は「働き方改革」の一環として「長時間労働の是正」を掲げており、今後、長時間労働の規制が法律面において強化される可能性は高い。

長時間労働の問題の本質はどこにあるのだろうか?

長時間労働が「悪」とされるのは、「日本人の動労生産性の低さ」が原因とされる。

労働生産性とは「就業者一人当たりが働いて生み出す付加価値の割合であり、国の経済活動の効率性を示すデータの一つ」である。

ここで言う「付加価値」とは、「売上高からその売上を上げるために外部から調達した商品やサービスの金額を差し引いたもの」である。

例えば、電子部品を作るために材料を自社で調達し、最終的な組み立てを外注し、包装を自社で行って出荷した場合、売上から材料代金と外注費を引いたものが「付加価値」となる。

しかし、リハビリテーション業務や看護業務に関しては他の産業の業務と異なり、材料費の割合が少なく、経費のほとんどが人件費となるため付加価値の計算は難しい。

つまり、リハビリテーションや看護業務の生産性の高さとは、「短時間当たりの作業量の多さ」と言い換えることができる。

したがって、「短時間当たりの作業量の多さ」を改善することが本質的な問題である。

「短時間当たりの作業量を多くできない」から「ダラダラと長時間労働をしている」という理屈が働く現場にあると言える。

しかし、「長時間労働をやめても短時間当たりの作業を多くできない」なら、最悪のことになる。

逆説的に考えると、「短時間当たりの作業を多くできないことを、長時間労働でカバーしている」という前向きな対応とも言える。

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長時間労働をなくすことはあくまで手段である。

本質的な目的は「労働生産性を上げること」である。

そして、もう一点考えなければならないのは、労働者一人当たりの業務過多である。

業務過多の状態の労働者に対して、長時間労働を是正することはある意味「パワーハラスメント」とも言える。

「業務過多問題」を「長時間労働問題」とすり替えている医療機関・介護事業所は最悪の極みである。

医療・介護現場では、決められてた人員数で決められた作業を行わなくてはならない。

よって、経営者や管理者は、「労働生産性」・「労働時間」・「作業量」を管理した上で、長時間労働の是非について検討しなければならない。

長時間労働を減らせ!では、何も解決しない。

 

 

安倍政権が進める働き方改革「非正規雇用の待遇改善」の恐ろしさを医療・介護現場は気づいているか??

現在、政府は目玉政策として、「1億総活躍社会の実現」を進めている。

1億総活躍社会の基本政策は、「一人一人の事情に応じて多様な働き方が可能な社会への変革に取り組む」ことである。

この基本政策を実現するために以下の3つの政策が検討されている
1)非正規社員の待遇改善
2)長時間労働の是正
3)高齢者の就業促進

これら3つの政策は、日本にある全企業の労務・人事に関するマネジメントに大きな影響を与える。

医療・介護の現場においても、例外ではなく、労務・人事管理のマネジメントの変革が求められる。

今回は、非正規社員の待遇改善政策が医療・介護現場に与える影響について考えてみたい。

非正規社員の待遇改善とは、簡単に言うと「正社員と変わらない給与を支給する」ことである。

いわゆる「同一労働同一賃金」という考え方である。

「同一労働同一賃金」という考えは、雇用が保障される正規と雇用が保証されていない非正規との間には大きな賃金格差があるため、社会保障の観点から、非正規社員の賃金を是正するという理念から生まれたものである。

しかし、正規社員の給与形態を維持したまま、非正社員との賃金格差を是正することは容易ではない。

日本の伝統的な給与体系は、年功序列制度を用いている。

勤続年数が長くなるほど、賃金が増加する仕組みである。

しかし、非正規社員の場合は、職種ごとに一定の時給や月給が定められているため、勤続年数が長い正規社員とは、かなりの賃金差が生まれることになる。

日本の伝統的な給与体系は、景気が良かった時代の名残でもある。

長期間にわたり会社に貢献することが、労働者の美徳であるとの考えは根強い。

また、日本では60歳から65歳の間で退職するという「定年退職制度」が用いられている。

ある意味これは、強制解雇であるため定年までの雇用と賃金増加を保証する必要がある。

以上のような理由から、日本の企業は年功序列制度を変更することが難しい。

また、別の問題として、正規社員と非正規社員の組織への帰属意識や理念実践の差が挙げられる。

一般的に正規社員は非正規社員と比較して労働時間は長く、上司や顧客とコミュニケーションを取る機会も多い。

そのため、組織人としての行動や理念の実践において、非正規社員より正規社員の方がはるかに期待できる。

正規社員は「自身のやりたいこと」や「専門職としての能力発揮」などを求めて働いているケースが多いが、非正規社員は、「金銭的報酬」を目的に働ている人が多い。

企業の立場に立つと、組織への帰属意識や理念実践に差がある正規社員と非正規社員の賃金を同一にするということには、相当な違和感があるだろう。

つまり、非正規社員の待遇改善を実現するためには、単に非正規社員の給与を上げるのではなく、「給与体系」や「人材育成」に関して改革が求められる。

 

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医療・介護の現場には、相当数の非正規社員がいる。

特に、最近はワークライフバランスが推進されているため、短時間勤務の医療・介護従事者も増加している。

そのため、この非正規社員の待遇改善は大きな問題である。

しかしながら、なんの手立てもせずに、非正規社員の待遇を改善すれば、相当な人件費の増加となり、経営的には大打撃である。

非正規社員の待遇改善を実現するためには、以下の二つの対策を医療・介護事業所は実践しなければならない。

1.正規社員の給与体系を年功序列から実力重視に切り替え、正規社員、非正規社員ともに徹底的な人事考課を行う。

2.非正規社員に正規社員と同等の組織の帰属意識や理念の実践について教育し、実行させる。

この2点を実現できなければ、非正規社員の賃金を上げたとしても経営的には何の意味のないものになる。

医療・介護現場は、「マネジメント下手」である。

よって、非正規社員の待遇改善は極めて大きな課題である。