急性期7:1病棟削減から読み取る医療・介護事業の本質

平成26年度診療報酬改定では7:1病床の削減を目的として、重症度・医療・看護必要度の厳格化、在宅復帰等患者割合の新設が行われた。

7:1病床は現在、35万床となっており、医療費を増加させる要因とされている。

今後、国は急性期医療を高度急性期と一般急性期に機能分化させたいと考え、高度急性期を、「総合入院体制加算1」の基準を満たす病院とイメージしている。

※総合入院体制加算1とは
1.一般病棟入院基本料を算定する病棟を有する保険医療機関であること
2.内科、精神科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科及び産科又は産婦人科を標榜し、当該診療科に係る入院医療を提供している保険医療機関であること
3.全身麻酔による手術件数が年800件以上であること
等が要件である。

では、一般急性期はどのような機能が今後は求められていくのだろうか?

一般急性期は高度急性期のように診療密度が高くはないが急性期の患者に診療を提供する病棟であると国は定めている。

すなわち、肺炎、骨折、内科系疾患等で軽度から中等度の重症の患者が入院する病棟である。

そのような疾患の患者は、2030年まで増加していく。

このような状況で病棟を削減していく国の考えには矛盾している点がある。

それは今後推進される在院日数短縮と病床削減の目的と7:1病床削減の目的が二律背反することである。

在院日数が短縮し、病床が削減されれば、相当数の患者が毎日入院してくる。

そうなると看護師の現場対応はより繁忙となりマンパワーが確保が重要となる。

すなわち在院日数が減らす以上、マンパワーとの確保が重要である。

国がこの点に気づいていないことはありえない。

知っていて言わないという可能性が高い。

国はかならず、何か仕組みを作り、軽度から中等度の重症患者の対応が可能な社会システムをつくるはずである。

そこで考えられるのが「地域包括ケア病棟」、「地域包括診療料」、「訪問看護」の推進である。

これらの仕組みは慢性期機能でありながら、ある程度の急性的な医療的処置が可能である点である。

このようなフレキシブルな機能をより強化していくことで、急性期病棟に対する負荷を減らしていく可能性が高い。

しかし、最大の問題はそれらの機能の質の担保である。

回復期リハビリテーション病棟も当初かなり診療報酬上のインセンティブが導入され多くの医療機関が参入したが、その診療の質に対して国は懐疑的であり、毎回の診療報酬改定で厳しい要件が設定されている。

今後も「地域包括ケア病棟」、「地域包括診療料」、「訪問看護」の質の向上が求められていく。

医療・介護というのは公的保険で賄うサービスである以上、マーケットの拡大とサービの質の担保という相反することを成立させなければならない。

今後の医療・介護事業の成否は質の担保にあることを忘れてはならない。

 

 

 

 

もはや絶対的に優位な職種などない

一生安泰に食べていける職種など、もはや存在しない。

医師であっても、能力が低ければ年収1,000万円に届かない時代である。

一方、看護師長として教育・マネジメントに長け、適度に管理当直を担えば、年収1,000万円を超えることも可能である。

理学療法士がいくら研鑽を積み、認定理学療法士や博士号を取得し、役職に就いたとしても、年収600万円程度が上限であるのが現実である。

その一方で、高度な専門性がなくとも訪問看護ステーションを開設し、優れたコミュニケーション能力と営業力で安定した利用者を確保し、利益を出せば、年収1,500万円を超えることも珍しくない。

今日では、たとえダブルライセンスを取得したとしても、当該職種が既にレッドオーシャンにあるという現実からは逃れられない。

人口減少が進む日本において、すべての職種が今後100年にわたって数を減らしていくことは明白であり、全業界が競争過多の状況にある。

一時的に景気や国策によって時給単価が上がる職種もあるが、それが10年続く保証はなく、その上昇幅も将来的な資産形成に大きく寄与するものではない。

今後、多くの職種は最低賃金を基盤に再構築されていくであろう。

すなわち、日本においては、老後の資産形成や経済的余裕が約束された職業など、もはや存在しないということだ。

現に、医師や弁護士ですら十分な収入を得られず、食べていけない者が多数いる。

ダブルライセンス、資格偏重、学術偏重、夢想的な語りでは、社会への具体的な貢献が伴わない限り、収入の増加にはつながらない。

その一方で、どれほど平凡なスペックの人材であっても、社会に有益なアウトプットを継続できれば、年収は確実に上昇する。

もはや「絶対的に優位な職種」は存在しない。

しかし、「絶対的に優位な働き方」は、たしかに存在するのである。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。

判断と決断の違い ― 現場に必要なのは「動かす力」である

「判断」とは、物事の是非や状況を見極め、自らの考えを定める行為である。

一方、「決断」とは、判断を踏まえて選択肢の中から一つを選び、責任をもって実行に移す行為である。

この二つは混同されやすいが、意味合いも役割も大きく異なる。

判断はできても、決断しない人が多い

医療・介護現場では、問題点を見極め、一定の判断は下しているものの、
・その実行を他者に委ねる
・上層部の指示を待つ
・あるいは決断自体を先送りにする
といった「決断回避」の傾向が散見される。

たとえば、「連携が不足している」「看護部門の協力が得られない」「経営陣が現場を理解していない」といった声はよく聞かれる。

しかし、これらの問題について「では、あなたは何を決断するのか?」と問うと、
「決断すべきことは特にありません。ただ、現状に不満があります」と返されることが多い。

決断を避ける者に成長はない

このような姿勢は、変化を起こす機会を自ら手放しているに等しい。

判断しかせず、決断を下さない人材には、以下の特徴がある。

  • 責任を取ることを避ける

  • 現状維持を好み、変化を恐れる

  • 自らの意志を示さず、他者の評価に依存する

結果として、キャリアは停滞し、収入は上がらず、組織内での存在感も薄れていく。

極端に言えば、企業の“永続的労働力”として使われ続けるだけの存在となる。

チーム医療・介護の誤解

多職種連携が叫ばれる中、「チーム医療」や「チーム介護」を、単なる「情報共有の場」だと誤認しているケースは少なくない。

しかし、真に機能するチームとは、判断を持ち寄る場ではなく、決断に向けた意思を統合する場である。

単なる意見交換に終始していては、何も動かない。

チームの本質は、

  • 各職種が責任ある決断を持ち寄り

  • それをぶつけ合い、

  • 実行可能な方向へまとめていく
    という意思決定のプロセスにある。

判断のみに長けたチームに価値はない。
価値を生むのは、決断と行動である。

決断こそが現実を変える

判断は出発点にすぎない。

決断して初めて、物事は動き出す。

判断と決断を混同している限り、仕事は「理解しているが、変わらない」ものとなる。

だが、覚悟を持って決断すれば、現場の景色は確実に変わっていく。

いま、医療・介護現場に求められているのは
判断者ではなく、決断者である。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。

臨床がゴールでいいのか? 医療・介護職のキャリアを問い直す

現代の日本において、医療・介護分野の若手専門職――セラピスト、看護師、学生らと対話を重ねる中で、多くの者が「臨床活動」や「患者へのサービス提供」を最終目的と捉えている現実に直面する。

言い換えれば、「臨床という作業を遂行すること」自体が職業選択の動機であり、キャリア形成のゴールとなっている。

この傾向は、キャリア理論における「成長・探索・確立」のプロセスの停滞、あるいは職務中心型キャリア(Job-Centered Career)の過度な定着を示唆するものである。

本来、専門職におけるキャリアとは、自己概念の実現過程(Super, 1957)であり、環境との相互作用の中で進化するものであるべきである。

結果として、医療・介護現場では課題解決型人材よりも作業順応型人材が増加する傾向がある。

もちろん、作業を正確にこなす力は組織運営にとって不可欠であり、一定のマンパワーは社会的にも価値がある。

しかしながら、作業の延長線上からはイノベーションは生まれない。

作業はあくまで作業であり、変革を生む源にはなり得ない。

日本は、世界でも有数の経済大国でありながら、少子化・超高齢化・財政難という構造的課題を抱えている。

その一方で、衣食住に不自由しない社会保障制度の中で育った若年層は、自己実現への強い欲求や社会変革への執着心に乏しい。

これは、飢えや苦難を経験しない平和な環境の中で形成されたマインドの飽和状態である。

目標なき日常は、キャリア選択を「作業の選定」に矮小化させる。

医療・介護従事者の数は急増しており、看護師、セラピスト、薬剤師、柔道整復師、鍼灸師などの供給は今後過剰となる見通しである。

需給バランスの崩壊により、人件費は圧縮される。

にもかかわらず、多くの従事者は根拠なき安心感に包まれている。

「今の給与水準が続く」と信じる者が多いが、そこに戦略的なキャリア構築意識はない。

今、医療介護職に最も求められているのは、自分自身の仕事の意味や社会における役割を明確に持つことである。

キャリアアンカー理論(Schein, 1978)では、「奉仕・献身型」や「純粋挑戦型」といった価値観が示されており、これは、自分の中核的な価値観と社会的な貢献意識をつなぐことで、職業人生における方向性を見出すものである。

自分の役割や使命を明確にすれば、目標は自然に定まり、行動も一貫性を持つ。

結果として、日々の選択に迷いが少なくなり、ブレないキャリアを築くことが可能となる。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
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医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
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在宅医療の現実と課題 〜進まないインフラ整備と求められるマネジメント変革〜

平成26年度の診療報酬改定で、各病棟機能に在宅復帰要件が追加された。

急性期病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟などで要件が強化され、医療と介護の在宅シフトが本格的に進んだタイミングだった。

その一方で、2025年現在でも在宅インフラが十分に整っている地域は限られている。

大手医療法人では、病棟や介護施設の整備と運営が優先され、在宅部門に本格的に経営資源を投入する段階には至っていない。

収益の柱である入院・施設部門の経営が重視されており、在宅医療は後回しにされるケースが多いのが現状となっている。

また、単独型の訪問看護ステーションや在宅診療所は増加しているが、小規模事業所が多く、人材不足や経営基盤の脆弱さから事業拡大には課題が残る。

訪問看護ステーションにおいては、常勤スタッフが2人以下の事業所が約7割を占めており、24時間対応や急変時の体制構築が難しい。

地域によるサービス提供の偏在も依然として大きな課題となっている。

都市部では在宅医療の体制が徐々に整いつつあるものの、過疎地域や中山間地では事業所の数が限られており、十分なサービスを提供することが難しい状況が続いている。

また、医師の不足も深刻な問題である。

在宅医療に専従する医師は限られ、多くの医師が通常診療と並行して在宅医療に携わっている。

そのため、患者数の多さや急変時の対応が医師に集中し、負担が大きくなっているのが現状だ。

こうした背景から、在宅医療への医師の参入は依然としてハードルが高い。

こうした状況を打開するには、看護師やセラピストが現場での状況を判断し、必要に応じて医師に診察を依頼する仕組みが不可欠となる。

このような役割分担はすでに欧米の在宅医療では一般的になっており、日本においても看護師やセラピストがより高度な医学的知識を身につける必要がある。

さらに、在宅医療現場では情報共有の遅れも課題となっている。

現場では未だに電話やFAXが中心となっており、電子カルテやクラウドシステムの導入が進んでいない。

多職種間でリアルタイムに情報を共有できる体制を構築しなければ、在宅医療の質を維持することは難しい。

一方で、高齢化の進展に伴い、在宅療養のニーズは着実に増加している。

高齢者人口は年々増え続けており、単身世帯の増加も顕著である。

在宅医療を必要とする人々が増える中で、供給体制の整備が追いつかない状況が続いている。

支える側のインフラ整備が追いつかない中で、需要と供給のギャップが拡大している。

また、在宅医療では異なる事業者の医師、看護師、セラピストが連携する場面が多い。

それぞれが異なる医療観や介護観を持ちながらも、共通の目標である患者のQOL向上に向かう必要がある。

地域ごとに標準化された医療・介護知識や理念を共有し、各事業所が自らの方針を開示していくことが重要となる。

これからの在宅医療には、「権限移譲」「情報共有」「情報開示」という新たな視点が必要になる。

これらを実現するには、新しいマネジメントのあり方と、それを担う人材の育成が欠かせない。

時代の変化を乗り越えるために、人と組織の成長が鍵を握っている。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
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関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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