2022年度診療報酬改定 標準的算定日数を超えた場合、月1回のFIMの導入による懸念

2022年度診療報酬改定では、疾患別リハビリテーションに対する大きな改定はなかったが、気になる制度が導入されることになった。

疾患別リハビリテーションにおいて標準的算定日数を超えてリハビリテーションを行う場合において、月1回以上のFIMの測定が要件化された(下図)。

これは、治療を継続することにより状態の改善が医学的に判断される患者が対象となっている。

回復期リハビリ病棟で実施されているアウトカム評価が特に標準的算定日数を超えた患者が多い外来リハビリにおいて実施されたと言えるだろう。

これは中医協の議論において「疾患別リハビリの質の高いリハビリテーションの推進」の観点から、標準的算定日数越の患者のリハビリテーションの効果に疑念が持たれた他ならない。

この制度が導入された真の目的は2つ考えられる。

1)将来的に期限を超えての改善目的のリハビリテーションでは改善割合が一定以上とする制度を導入したい

2)標準的算定日数を超え、状態の改善が期待できると判断されない場合においても、1月に13単位まで疾患別リハビリテーションを算定できるが、将来的にはこの維持期リハビリテーションも制限をかけたい

今回は上記の目的にのためのデータ収集事業としての側面が強いと考えられる。

また、FIMだけの計測で本当にリハビリテーションの効果を測ることができるのか?という問題が残る。

特に、整形疾患、心疾患、呼吸器疾患ではADLは自立しているが、生活の質の低下が顕在化しているということが多い。

今回の改定では、疾患別リハビリテーションのデータ提出加算も導入されており、リハビリテーションのサービスの中身に関するデータ収集が本格的に始まる。

以上のようなことを踏まえると次回の改定では、疾患別リハビリテーションに大きな制限がかかる可能性が高い。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

2022年度診療報酬改定 かかりつけの医療機関の定義が明確化された機能強化加算の新要件

かかりつけ医機能を評価するために、2018年度の前回診療報酬改定で新設された
機能強化加算の要件変更が2022年度診療報酬改定にて行われた。

現在の機能強化加算の内容は次の通りである。

目的
かかりつけ医機能を持つ診療所を評価する

点数
初診料の算定時に80点の加算が可能である

対象患者
初診料を算定する患者

届出要件
次のいずれかの届出を行っていること
① 地域包括診療加算
② 地域包括診療料
③ 小児かかりつけ診療料
④ 在宅時医学総合管理料(在宅療養支援診療所に限る)
⑤ 施設入居時等医学総合管理料(在宅療養支援診療所に限る)

このように加算や管理料を届けていれば自動的に算定できる加算であるため、「かかりつけ機能の強化」という実効性がない加算であると業界内では批判されていた。

そのため、2022年度診療報酬改定では機能強化加算の要件が次のように強化された(下図)。

 

これらの詳細な内容について自院のホームページに明記することも求められている。

特に、他の医療機関における医薬品の把握や診療時間外の緊急対応については在宅医療を本格的に行っていない診療所にとってはハードルが高いものとなる。

また、上記の要件に加えて
直近1年間で「地域包括診療加算2の算定患者3人以上」「往診料・訪問診療料の算定回数合計が3人以上」のいずれを満たすこととの実績基準や常勤医師による「警察医との協力」「乳幼児健診の実施」「予防接種の実施」「地域ケア会議への出席」も要件化された。

今回の改定では、かかりつけ医として求められる具体的な機能が明記されたと考えられる。

特に、新型コロナの影響により在宅診療や予防接種の実施は重要なテーマとなっているため訪問診療料や予防接種の要件が設けられた。

高齢化が伸展する日本では診療所の役割の強化は必須である。

今回の機能強化加算の要件の厳格化はかかりつけ医としての真価が問われる時代に入ったことを示唆すると言えよう。

投稿者
高木綾一

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自分自身が納得するまで患者・利用者に関わりたい症候群

 

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の中には、「自分自身が納得するまで患者・利用者に関わりたい」という人がいる。

このような人は、職人志向が強いあるいは患者や利用者への共感性が強いことが多い。

確かに、職人気質・クライアントへの共感はセラピストにとって必要な要素であるが、それは所属している組織の中におけるルール内において発揮するべき能力と言える。

殆どの理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は月給制で働いている。

一か月あたりに必要となる人件費が固定されていることから、利益を出すためには一定の売り上げが求められる。

そのため、組織は管理業務、カンファレンス等の医療の質の維持・向上に必要な事柄は実施した上で、売り上げの指標となる単位数、加算、稼働率を設定する。

つまり、「セラピストは自分の給与を踏まえた上で利益が出るように働くこと」が組織に所属するセラピストには求められる。

しかし、現場では「患者や利用者のため・・・」という殺し文句で、特定の患者にサービスを提供することや、レセプト請求の対象にならない行為を実施するセラピストがいる(下図)。

※転載禁止 自己中心的なセラピスト

このようなセラピストは自分自身が組織に所属していることの意味を忘れている。

どうしても、自分が行いたいリハビリテーションを実施したいのであれば、起業して好きなようにやればよい。

しかし、組織に所属している以上は組織のルールに従うのが義務である。

セラピストである前に、社会人なんだから。

投稿者
高木綾一

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イラスト提供
福山真樹
メディカルアナトミーイラストレーター

医療・介護等の現場を、医療職種の胸の内まで分かりやすくイラストで伝える。
臨床で勤務する理学療法士だからこそ描ける作品を医療関係者等へ提供し、書籍・学会・福祉機器紹介PV等、様々な場面で用いられている。
福之画
https://fukunoe.com/
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https://workshift-online.com/rehaart/

魅力がない臨床実習指導者問題

 

理学療法士・作業療法士の臨床実習指導者の要件は以下のように定められている。

実習指導者は、理学療法、作業療法に関し相当の経験を有する理学療法士、作業療法士とし、免許を受けた後5年以上業務に従事した者であり、かつ、厚生労働省が指定した臨床実習指導者講習会等を修了した者とする。

現在、臨床実習指導者を担当する場合は、臨床実習指導者講習会を修了しなければならない。

臨床実習指導者講習会では、実習に必要な各種要素(教育論、人間関係論、コンプライアンス、ハラスメント、治療プログラム、学生評価)について座学で学ぶ。

確かに、これらの各種要素は学生教育に有益なものであり、臨床実習指導者講習会は一定の効果があると考えられる。

しかし、臨床実習指導者講習会を受ければ臨床実習指導者として一人前と言えるわけではない。

特に学生は、臨床実習指導者の人間性を評価する傾向がある。

知識や技術がどれだけ長けていても、人間性に問題がある場合は臨床実習指導者として尊敬されず、ひいては理学療法士や作業療法士の魅力の低下にもつながる。

臨床実習指導者が否定的な言葉を学生にすることがあるが、これは最悪のケースである。

臨床実習指導者は理学療法や作業療法の専門性を伝授する立場ではあるが、一方でこれからのリハビリテーション業界を支える学生に理学療法士・作業療法士の魅力や可能性を伝える立場でもある。

つまり、臨床実習指導者は学生と接することで、学生の将来の仕事へのモチベーション向上やキャリアビジョンの構築に寄与する役割もあると言える。

理学療法士・作業療法士の過剰供給時代になり、給与面という物質的な欲を満たせる環境が少なくなる社会だからこそ、やりがいや生きがいなどの精神的な要素を学生に伝える必要がある。

臨床実習指導者はぜひ、リハビリテーション業界の魅力や理学療法士・作業療法士の可能性を語れるようになって欲しい。

投稿者
高木綾一

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ブランディングを軽視する医療機関・介護事業所に未来はない

ブランディングに取り組んでいる医療機関や介護事業所は少数派である。

なぜならば、今まではブランディングに取り組まなくとも、医療機関や介護事業所を開設すれば、患者や利用者が集まってきたからである。

しかし、高齢者人口の地域格差、若年層の人口減少、医療機関・介護事業所の乱立・新型コロナウイルスによる利用控え、従業員の確保困難などにより医療機関や介護事業所の経営環境は厳しくなる一方である。

よって、今後の医療機関や介護事業所は選ばれる・選ばれないという二極化が加速する。

これからの時代は患者・利用者・家族・地域・職員・行政から愛され、選ばれる事業運営をしなければ生き残れない。

そのためには、ブランディングという考えは非常に重要である。

ブランディングを一言で言えば、「信頼」である。

「信頼」を得るためのすべての活動をブランディングと呼ぶ。

例えば、次のような事例はブランディングに無頓着と言わざる得ない。

加算の意味を理解せず、収益のために加算を算定している
医療機関や介護事業所のWEBサイトがない
WEBサイトは開設しているが全く更新されない
5年以上変わっていないパンフレットを配布している
離職率が高く、自転車操業のような採用が続いている
マンネリ化したイベントを繰り返し実施している
形式的な研修会の開催

上記のような事例が生じてしまう原因は「経営・運営をしている当事者達でさえ、自分たちの会社の価値を知らないこと」に尽きる。

自社の価値を認識していないから、「何かを変えるという動機づけ」が生じない。

よって、漫然とした経営や運営を繰り返すことになる。

今後、医療機関・介護事業所は間違いなく生き残りは厳しい時代となる。

この時代を勝ち抜くためには「自社の本当の価値は何か?」を明確化し、社内外へ周知を図る必要性がある。

投稿者
高木綾一

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