リハビリテーション部門の課題
非常勤セラピストをどのように活用するか?

団塊の世代が後期高齢者になる2025年に近づくにつれて、医療・介護の需要は急激に増加している。

特に、介護の需要は著しく増加すると見込まれ、現状においても介護事業所におけるセラピストの人材不足は顕著である。

そのため、介護事業所は正規社員に加え、非正規社員である非常勤セラピストを雇用し、人材不足を補っている。

また、非常勤セラピストとして働くことのニーズも非常に高い。

セラピストの平均的な年収はこの10年間において400万円を超えず、今後も政府の社会保障費の圧縮により給与が上がる見込みは低い。

そのため、年収の増加を図るため、常勤で働いている医療機関等とは別の介護事業所等に公休日を利用して非常勤セラピストとして働くことが一般的なことになっている。

一見すると介護事業所とセラピストのニーズが適合しているように感じられるが、介護事業所の現場では次のような問題が生じている。

1.理念や経営方針の共有が出来ていないため、利用者や従業員と非常勤セラピストがトラブルを起こすことが多い

2.非常勤セラピストのリハビリテーションの知識や技術の幅があり、標準化されたリハビリテーションを提供することが出来ない

3.人事考課等の評価制度がないことが多く、非常勤セラピストの評価が困難である

このような問題は利用者に提供するリハビリテーションの質の低下につながり、ひいては利用者や介護支援専門員の評判を落とし、介護事業所の経営に影響を与えかねない。

したがって、非常勤セラピストの人的資源管理は介護事業所にとっては非常に大きな問題であると言える。

非常勤セラピストが介護事業所に貢献し、職場においてに活き活きと活躍できるようにするためには次のような施策が必要であると考えられる。

1) 非常勤セラピストに対して事業所の理念やそれに基づく行動規範を解説する研修等を設ける。

2) 介護事業所にとって必要なリハビリテーションの知識や技術を明示し、非常勤セラピストが持つリハビリテーションの知識や技術との差異を確認する。差異が認められれば研修の場を設け、リハビリテーション技術の研鑽を行ってもらう。

3) 上記1)と2)の施策を行ったうえで、人事考課を行い人事考課の結果を時給等の処遇に反映させていく。

介護保険法で定められた介護事業所の理念は質の高い介護サービスの提供である。

労働不足を補う非常勤セラピストの採用がその理念を阻害するものであってはならない。

非常勤セラピストに対して理念や行動規範に関する研修を行うことは、仕事上における明確な行動目標を提示することになる。

非常勤セラピストの勤務時間は常勤セラピストと比較して短いことから、行動規範の暗黙知に関わる部分を学ぶことが難しい。

したがって、研修を通じて理念を実現するための行動を明示することは、形式知として行動規範を学ぶことになり、その結果、行動規範の実践の可能性が高まる。

また、人的資源管理は理念に基づくものでなければならない。

理念の実践より労働力不足を補うことが優先されている実情を正すことが、非常勤セラピストに対する人的資源管理の正常化の一歩であると考える。

介護事業所にとって必要となるリハビリテーション技術は異なる。

例えば、重症利用者が顧客の中心である訪問看護ステーションの場合では、呼吸、循環、車椅子に関するリハビリテーションの知識や技術が求められる。

採用前の非常勤セラピストに対して、どのようなリハビリテーションの知識や技術が自社にとって必要であることを明示することで次のような効果が得られると考えらえる。

① 必要とされたリハビリテーションの知識や技術が、非常勤セラピストが興味を持つものであった場合、内発的動機付けを向上させる可能性がある。

② 必要とされたリハビリテーションの知識や技術に対して、全く興味がない、取り組むことにモチベーションが上がらないという場合に関しては、採用を見送ることが出来る。

また、必要とされたリハビリテーションの知識や技術に差異があった場合、研修を通じてその差異を埋めることを介護事業所が支援することにより、非常勤セラピスト自身が「自分にもこのリハビリテーションが提供できるのではないか」と言う「自己効力感」を持つことが可能となる。

自己効力感が上がれば、知識や技術取得のための行動力が上がり、さらに学びを深めていくという好循環も期待できる。

理念に基づく行動規範や必要とするリハビリテーションの知識や技術の実践を支援することは本人の内発的な動機付けを刺激することになる。

このような支援を行った上で、人事考課による時給等の処遇の向上を行うことが重要と考える。なぜならば、内発的動機付けと外発的動機付けの両方を誘発する施策が本人のモチベーションを向上させる可能性が高いからである。

筆者が関わっている現場において、非常勤セラピストは、「年収増加のためだけの一時的な仕事」と考えている傾向が強い。

したがって、給与という外発的動機付けが優位になっており、内発的動機付けに乏しい。

介護事業所は介護保険という公的保険を財源にした事業である。

したがって、企業倫理として質の高いサービスの提供を強く意識しなければならない。

したがって、内発的動機付けと外発的動機付けを用いることによる非常勤セラピストの活躍推進は極めて重要である。

介護保険分野に勤めるセラピストは心身機能・活動・参加のすべての分野に精通しなければならない

2018年度介護報酬改定の中でも最大の注目ポイントは「介護度改善に対するインセンティブ報酬」であろう。

首相官邸主導で行われた「未来投資会議」にて、安倍晋三首相が「要介護者の自立・回復を達成した事業所を評価する」旨の発言をしたことにより、要介護者の自立・回復が2018年度介護報酬改定の大きな焦点となった。

これまでリハビリテーションに関する政策は、急性期や回復期を中心に行われてきた。

人員要件や報酬単価は急性期や回復期は生活期と比較して遥かに充実している。

しかし、風向きが変わったのは通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションに対して活動と参加の取り組みを評価する報酬が認められた2015年度介護報酬改定である。

「心身機能だけでなく、活動と参加の獲得が重要である」と言うメッセージが強く発せられた2015年度介護報酬改定であっが、2018年度介護報酬改定では「心身機能・基本動作・応用動作の改善が重要である」というメッセージが放たれることにになりそうだ。

活動と参加に関しては、生活における重要項目であることは間違いない。

そのため、2015年度改定の活動と参加への評価は、違和感なく業界に受け入れられている。

しかし、生活期において「心身機能・基本動作・応用動作の回復を求める」ことは、介護保険領域で働いているセラピストの中には、驚いている人も多いのが現状である。

要介護度の改善の必要性は、社会保障費の圧縮が主たる理由である(図1)。

日本経済新聞 2017年9月7日 朝刊

しかし、生活期における要介護度の改善は別の理由からも必要である。

その理由は、入院医療の在宅復帰や在院日数の短縮により、回復の伸びしろのある方が多く在宅で生活をしている状況が加速しているからだ。

つまり、「在宅での回復=在宅回復期」が、急性期・回復後の利用者が増えていく時代には必要と言える。

そのため、今後、介護保険リハビリテーションにおける心身機能の改善は大きなテーマになる。

介護保険分野に勤めるセラピストは心身機能・活動・参加とすべての分野に精通しなければならない時代になった。

2018年はリハビリテーションの主流が入院医療から在宅医療へ転換する重要なターニングポイントになるのかもしれない。

 

 

 

「女性PT・OT・STの活躍推進」は組織にとって大きな課題である

理学療法士の40%、作業療法士の64%、言語聴覚士の77%は女性であり、勤務するセラピストの殆どが女性であるというリハビリテーション部門も珍しくない。

したがって、女性セラピストの労働力確保と質の向上は経営や運営における重要な要素である。

他の産業と同様に、女性セラピストは出産、育児というライフイベントにより、一時的にセラピストとしての仕事を制限されることが多い。

一般的にリハビリテーション部門では、産休制度、育休制度、短時間勤務制度は整備されており、多くの女性セラピストが利用している。

しかし、それらの制度を利用した後に、キャリアを構築することが困難となり、正規社員から非正規社員に移行、あるいは退職するという、いわゆるマミートラックの状況に陥る女性セラピストが多い。

産休制度、育休制度を利用後、女性セラピストがマミートラックに陥りやすい原因として、医療・介護分野の特性とセラピストとしての専門職の特性が関係していると考えられる。

医療・介護分野は2年から3年に一回の頻度で制度改定があり、リハビリテーションに関する業務内容が数年単位で変化していく。

そのため、育休制度などを利用し長期間にわたり職場を離れてしまうと復帰後の仕事内容が大きく変化し、仕事の難易度が上がっていることが多い。

このような背景から、上司の配慮により仕事内容の難易度を低下させることがあるが、その結果、責任ややり甲斐のある仕事への関りが少なくなってしまう。

また、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の仕事は、知識や経験の差が大きく職業能力に影響する。

近年、リハビリテーション医学は短期間で発展を遂げていることから、長期間にわたり仕事から離れてしまうと、セラピストとしての知識や技術の陳腐化が生じやすい。

そのため、職場復帰後に、質の高いリハビリテーションができないことに焦りや不安を感じた人は、難易度の高い患者を担当することを避ける傾向があり、結果、専門職として知識や技術が伸び悩むことになってしまう。

産休制度や育休制度を利用した女性セラピストが復職後においてもリハビリテーション部門に貢献し、かつ、本人が遣り甲斐をもって仕事を継続するためには次のような施策が必要であると考えられる。

1)女性セラピスト向けにキャリアデザインに関する研修を行い、ライフイベントなどによって生じるキャリ構築におけるリスクやその対応策について学習をしてもらい、将来のキャリアの見通しを立ててもらう。

2)産休制度・育休制度利用中においてもEラーニングなどを用いて医療・介護制度やリハビリテーション医療に関する知識や技術について学習する機会を設ける。

3)職場復帰後に医療・介護制度やリハビリテーション医療に関するリカレント教育を行う期間を設ける。

4)復職後、キャリアに悩む女性セラピストの相談窓口(先輩女性セラピストやキャリアコンサルタントによる相談)を設ける。

女性セラピストへのライフイベント前の研修や相談窓口の設置は、キャリア構築における不安を軽減させ、将来のキャリア構築の見通しを立てることに寄与する可能性がある。

このことにより、自身のキャリア構築に関する魅力や達成の期待が増すと考えられ、期待理論によるモチベーションの向上が期待される。

また、研修によりキャリア・アンカーが明確になれば、自身のキャリア構築における目標設定が明確になるため、目標設定理論によるモチベーションの向上も期待できる。

また、産休制度・育休制度利用期間中や復職後における医療・介護制度やリハビリテーション医療に関する学習の機会の提供は、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士という専門職の学習意欲を刺激し、内発的動機づけを高める可能性がある。

さらに、キャリアに関する相談において、助言者と良い関係が構築することができれば、助言者が女性セラピストのロールモデルやメンターとしての機能する可能性もある。

一方で筆者がコンサルティングにかかわる現場では、復職後の女性セラピストの中には「できるだけ難しくない症例を担当したい」、「仕事内容を簡易にしてほしい」と主張することも散見される。

このような主張は、先述したように医療・介護制度やリハビリテーション医療の急速な変化により生じた不安に基づいていると考えられるが、同時に専門職としてのプライドや倫理観の低下が影響している可能性も完全には否定することはできない。

なぜならば、近年、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の数は急増とそれに伴う教育の質が低下していることや、働いている理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の質の低下が報告されているからである。

したがって、女性セラピスト自身が「復職後や育児中だから、簡単な症例を担当したい」と思うのではなく、「復職後や育児中であっても専門職として難しい症例も担当したい」と考える高い職業倫理の醸成も、女性が活躍するために必要である。

復職後の女性が専門職として活き活きと働くためには、組織によるキャリア構築に関する支援と女性セラピストの専門職としての職業倫理の醸成の両立が必要であると考えられる。

毎年2万人近く増えるPT・OT・STの雇用を医療保険・介護保険分野で生むことはできない

PT・OT・STが毎年2万人。

10年で20万人

20年で40万人

今より増えることになる。

一方で、直近の医療・介護分野においては
回復期リハビリテーション病棟数の鈍化
回復期リハビリテーション病棟の取得単位数制限
地域包括ケア病棟におけるリハビリテーション料の包括化
訪問看護ステーションからのセラピストの訪問を反対する勢力の存在
要支援者の日常生活支援総合事業への移行
通所リハビリテーション利用日数制限への流れ
などのセラピストの雇用が制限される制度改定や議論が行われている。

また、社会保障費は増える一方であり、リハビリテーションに関する費用の圧縮も当然検討される。

つまり、増え続けるセラピストの雇用の場が安定的に供給される状況が未来にはないことが容易に想像される。

今後は潜在理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が大量に生まれる可能性が高い。

資格者数が増えると潜在資格保有者が増える。

これは歴史が語っている。

潜在看護師は71万人
潜在歯科衛生士は15万人
潜在薬剤師は9万人

アウトカム志向が強くなる
年収の増加が期待できない
仕事内容が高度化してくる
女性の就業率が高くなる
などの状況と資格保有者増加が重なれば、必ず潜在資格保有者は増える。

しかも、2042年に高齢者の数はピークを迎え、その後、高齢者は減っていく。

国内市場の医療・介護の市場は縮小していくことが目に見えている。

このような状況を認識したうえで、PT・OT・STは自らのキャリアを発展させなければならない。

しかし、残念ながら多くのPT・OT・STは自身に降りかかる環境の変化さえ知らない。

病院の院長
介護施設の経営者
養成校の教員
リハビリテーション部門の管理者
はPT・OT・STの雇用が大変厳しくなる現実を学生・従業員にしっかりと伝えるべきである。

高い給料がもらえる、将来に渡り安泰であるという根拠のない甘い言葉で、セラピストのモチベーションを高めるのは詐欺行為である。

今こそ、現実を直視し、セラピストは自らのキャリアをデザインする時期である。

 

 

 

 

加算ありきの介護保険事業所の経営は二流である

2018年度介護報酬改定に関する議論が活況を迎えている。

2018年度は介護報酬改定だけでなく、第七期介護保険事業計画も同時に履行される年であり、介護保険に関する大きな制度変更が予想される。

その中でも、自立支援に対するインセンティブ報酬がとりわけ注目されている。

簡単に説明すると自立支援に関する指標が改善した事業所に対し、介護報酬を増加させるという仕組みである。

現行の介護報酬の体系は、要介護度が高くなれば報酬が増える仕組みになっているため、要介護度を改善させるメリットが事業所にはない。

このことに関して財務省や各種委員会より、現行制度の問題点として指摘されており、2018年度介護報酬改定で何らかの対策が実施されることになっている。

診療報酬と比較して、介護報酬ではサービスの質に対する評価は乏しく、今後は質の評価がより厳しくなっていくと予想される。

これまでの介護報酬におけるサービスの質の評価は下図のようになっている。

アウトカム評価に関しては近年、加算と言う形で評価されることが増えている。

経営を安定させるためには加算を取得することは大切であるが、加算の取得の本質は決して経営の安定ではない。

加算算定の本質は「介護保険事業所のアイデンティティ」の表明である。

なぜ介護保険事業をしているのか?
社会の中でどのような存在でありたいのか?

それを追求した形が、アウトカムであり、加算である。

自立支援のインセンティブ報酬に関する内容は、まだ、明確になっていないがおそらく、設定された指標を達成することにより加算を算定する形になるだろう。

しかし、加算ありきで物事を進めるのは、経営としては二流である。

自社のアイデンティティを考えた時に必要な加算であるかどうか?

加算のための加算ではなく、自社のアイデンティティを示すための加算を目指せば自ずと組織力は向上する。

加算のための加算は、「利益だけを考えた行動」という考えが透けて見えることから、従業員のモチベーションを著しく低下させる。

あなたの事業所の加算は、何のため?