多くの医療機関や介護事業所はサービスの模倣に飛びついて失敗する

経営戦略における模倣にはサービスレベルの模倣と仕組みレベルの模倣が存在する。

サービスレベルの模倣はインターネットの発達により、その期間が著しく短縮されており、サービスの模倣だけでは、競争戦略における持続的な優位性を生みにくい。

したがって、現代の経営においては、仕組みレベルの模倣が極めて重要である。

医療・介護業界でも、仕組みの模倣の重要性が見直されている。

一事例を示そう。

2000年より国は高齢者の退院後の在宅生活を支えるために、リハビリテーションを専門的に提供する「回復期リハビリテーション病棟」を設立した。

その後、当該病棟は、収益性の高さもあって全国に瞬く間に広がり、現在では当該病のベッドが8万床までになっている。

しかし、現在、当該病棟の運営状態は負け組と勝ち組に分かれるという二極化が進んでいる。

病棟の運営状態に最も影響を与えるのは病棟稼働率である。

病棟稼働率を高いレベルで維持できなければ、売上総利益は低下する。

病棟稼働率を上げる方法は、医療経営の専門誌などで解説をされているが、多くの医療機関は稼働率を向上に難渋している。

これこそ、まさに仕組みの模倣の難しさを示している。

回復期リハビリテーション病棟というサービスは模倣することは可能だが、経営の最重要指標である病棟稼働率を上げる仕組みの模倣は極めて難しいと言える。

ビジネスにおける仕組みを分析するには「P―VAR」が優れている。
※参考図書 井上 達彦:模倣の経営学.日経ビジネス人文庫

Position:競合ポジション・顧客セグメント

Value:価値提案

Activity:鍵となる主要活動

Resource:経営資源

事例で挙げた回復期リハビリテーション病棟の稼働率に関して、成功している医療機関が私のクライアントにいる。

その医療機関に関して、「P―VAR」を用いた分析を行うと次のような結果になった。

P:顧客は、リハビリテーションを必要とする心身機能が低下した高齢者である。回復期リハビリテーション病棟激戦地域に存在し、競合病院は半径5km以内に3つ存在する。

V:在宅復帰後の生活を見据えた医療
介護サービス
質の高い心身機能改善のリハビリテーションサービス

A:エビデンスに基づくリハビリテーションの提供
地域の介護事業所との質の高い連携

R:リハビリテーション医療を徹底的に教育された医師・看護師・セラピスト
地域の医療機関や介護事業所への医療・介護・福祉に関する教育活動

この医療機関は病院密集地域にあり、患者獲得の競争は熾烈な状況である。

しかし、回復期リハビリテーション病棟の稼働率は90%を常に超えている。

在宅復帰後を見据えたきめ細かい支援や質の高いリハビリテーションを提供する病院として地域からの評判がよく、紹介患者が絶えない状況である。

このような素晴らしい実績は、職員に対するリハビリテーションの教育や地域への関わりに起因している。

これらの活動を支えるResource(経営資源)の開発手法は、他の医療機関が模倣することが困難なものばかりである。

当該医療機関の教育者の確保、質の高い人材の採用、離職率低下の取り組みなどはすべて企業秘密であり、決して表にでることはない(図1)。

図1 外から見えるのは表面的な製品やサービスだけであり、それを支える仕組みは見えない

しかし、この医療機関も最初から、質の高い経営・手法を実践できたのではなく、10年程度の歳月の醸成により、他医療機関が模倣困難な仕組みを作り上げたのである。

多くの企業が、独自の仕組みを作ることが出来ずに、市場から淘汰されていくのが現実である。

模倣の対象となる情報があっても、それを元に企業の独自の仕組みを繰り上げることは、相当困難である。

あなたの組織はサービスの模倣ばかりしていないか?

サービスのみの模倣は、ルールを知らずにスポーツをするようなもので、現場レベルの混乱を助長するだけである。

技術を高めて、患者様から信頼されるセラピストになりたいです!という言葉の軽さはセラピストをダメにする

どんな理学療法士、作業療法士、言語聴覚士になりたい?

と質問すると圧倒的に多い回答は

「技術を高めて、患者様から信頼されるセラピストになりたいです!」

である。

しかし、この言葉の重みを知っている人はほとんどいない。

まず、「技術を高めることで患者様から信頼される」と言うことの目的は何かはっきりしないことが多い。

信頼をされるとどうなるのか?

信頼をされることで何を得たいのか?

が全く見えない。

信頼をされることで得られる対価を定めないと、技術を高め続けるモチベーションは得られない。

信頼は何かの手段であって、目的ではない。

信頼をされるだけでモチベーションが続くという人はいない。

例えば、沢山の患者から信頼されて、仕事が忙しくなるだけの状況にあなたは耐えられるか?

もう一つ、最大の問題がある。

どの範囲の患者から信頼を得たいのか?である。

自分の担当している患者のみに、接遇、チーム医療、リハビリテーションを熱心に行えば一定レベルの信頼は得られるだろう。

しかし、社会全般の患者から信頼されるためには、それ相応の仕組みが必要である。

ここで、信頼と信用について明確に分けて考えてみる。

「信用」
何らかの実績や成果物という業績を残した結果、組織や社会がその業績を評価し、「信用」が生まれる

「信頼」
過去の業績やその人の言動からその人の未来の行動を期待する行為や感情

過去を「信用」し、その「信用」から未来を「信頼」する。

したがって、社会全般の患者から信頼をされるためには、彼らがアクセスすることが出来る業績が必要である。

業績を確認することで、信用が生まれ、その結果、信頼へ発展する。

また、患者には主治医である医師やケアプラン立案の担当者である介護支援専門員などの代理人がいる。

したがって、代理人である彼らの存在も無視できない。

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として患者、医師、介護支援専門員より信頼を勝ち取るためには、彼らがアクセスすることが可能な業績を発信してくことが重要となる。

学会発表、論文発表、セミナー講師を積極的に行うだけでなく、SNSやプレスリリースなどの情報発信も極めて重要である。

技術を高めて、臨床を頑張っていれば、患者より信頼される というのは、幻想と言っても過言ではない。

「信用を残し、信頼を得る」という仕組みを構築できないセラピストには、真の意味で患者からの信頼を得ることはできない。

技術を高めて、患者から信頼されるセラピストになる。

この言葉の意味は相当重い。

 

 

 

 

家や車のローンは組めるのに、自身のキャリアデザインのローンを組めない人が急増中

キャリアデザインにお金は必要である。

これは、厳然たる事実である。

大学院への進学
資格取得のプロセス
治療技術の認定コースを受ける
自身より実力のある人の弟子になる
様々な研究に打ち込む

これらの活動はすべて時間とお金を犠牲にしている。

これらの活動に打ち込む時間に、働くことが出来れば収入が得られるし、ましてや、大学院、認定コース、研修は学費や参加費という現金を失うことになる。

キャリアを磨くためには、大変な金銭的負担を背負わなくてはならない。

しかし、世の中には金銭的な負担を理由にキャリアデザインを躊躇する人がいる。

金銭的な不安があるため、自己投資が出来ないのが理由である。

しかし、そういう人に限って、家や車のローンを組んでいる。

35年間にわたり金銭的負担を背負う家のローンは組めるのに、自分自身のキャリアを磨くためのローンは組めない。

大学院の学費は高くても200万円程度である。

一方、家のローンは利息を含めば、総額3000万円~5000万円である。

仕事で成功している人は、常に自己投資をしている。

自己に惜しみなく時間とお金をつぎ込み、キャリアを常に前進させている。

その結果、社会より高い評価を受け、金銭的な対価を得ている。

家や車のローンとキャリアデザインのローン。

あなたにとってどちらのローンが人生にとって大切だろうか。

自分のキャリアにお金をかける。

そんな発想を持っても良いのではないだろうか?

これからの時代、与えられた労働時間で作業するだけの労働者は、厳しい処遇を受けることになる。

組織や社会にとって、キラーコンテンツになるような働き方をしなければ、社会からの評価は得られない。

そのためには、自己投資が極めて重要な意味を持つ。

 

 

 

どれだけ頭が良くても、どれだけ技術があっても情報を発信しなければ、社会貢献もできないし、所得も上がらない

伝えないことは伝わらない。

こんな頭り前の原理原則を実践できていない人が多い。

どれだけ賢くても、どれだけ技術を持っていても、組織や社会に対して「私は〇〇なことが出来る人間です」、「〇〇の分野で〇〇のような貢献ができます」と情報発信をしなければ、その人は社会や組織から注目されず、活用されることはない。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の人の中には大変熱心に勉強する人がいる。

知識も技術も人並み以上に習得し、しっかりとしたリハビリテーションが提供できている人がいる。

しかし、そのような人に限り、自分からは情報発信をしない傾向がある。

知識や技術は組織や社会に活用されてこそ意義がある。

情報発信をしないことは、自らの能力を社会に還元していないことと同義である。

多くの人は、遠慮と謙虚を混同している。

遠慮は、自己主張すること自体を放棄していること

謙虚は、冷静に自己主張をすること

である。

遠慮することが謙虚なんだと考えている人には、永遠に社会貢献や所得増加の機会は訪れない。

ライフマネジメント視点から考えても、遠慮は百害あって一利なしである。

莫大な時間と金を投資して、習得した知識や技術を利益回収のために役立てないというのは、まさに人生における不良債権が増えていると言える。

知識、技術、認定資格、学位、経験はすべて、手段であって目的ではない。

自らの情報発信で組織や社会を変えていく姿勢を持たなければ、報われない努力という不良債権に振り回された人生になる。

技術を知らずに制度を語るな
制度を知らずに技術を語るな

地域包括ケアシステムの推進により、医療・介護の機能分化が進んでいる。

高度急性期・急性期・回復期・生活期の4つに大きく分類され、それぞれに大枠の役割が与えられている。

高度急性期から生活期にかけて、患者の状態やニーズは大きく変化する。

言い換えると、求められる理学療法、作業療法、言語聴覚療法、リハビリテーションサービスはそれぞれのフェーズにおいて変わるということである。

高度急性期には高度急性期に適した技術が必要である。

至極当たり前のことである。

しかし、医療や介護マネジメントの現場では、このような当たり前のことが認知されていない。

例えば、急性期病棟に認知症ケア加算が2016年度診療報酬改定で新設されたが、多くの医療機関では、加算の取得に難渋している。

理由は、認知症ケア加算を算定要件である人材配置やケアプロセスの実態がないからである。

つまり、認知症ケアに関する技術が社内に蓄積されていないということである。

また、別の事例では次のようなものが挙げられる。

ある理学療法士が研修会に一生懸命参加して、腰痛や変形性膝関節症のリハビリテーション技術を取得したとする。

しかし、その理学療法士が所属している訪問看護ステーションでは、近年、ターミナルステージの利用者が多く、終末期リハビリテーションの技術が現場では求められている。

これらの二つの事例から言えることは、技術と制度は表裏一体であり、その適合性を常に管理することが医療・介護マネジメントでは極めて重要であるということである。

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、医師は職人である。

職人は自身の価値観が満たせるか、どうかに興味があるが、社会動向や制度変更への情報感度は極めて乏しい。

その職員へのマネジメントを怠っていると、技術と制度のギャップが激しくなり、運営や経営がままならない状態になってくる。

医療・介護のマネジメントに関わる管理職は
技術を知らずに制度を語ってはいけないし
制度を知らずに技術も語ってはいけない。

今一度、社内の技術と自社が用いている制度の適合具合を確認してほしい。