「誰でもできる仕事では賃金は上がらない」という極めてシンプルな市場原理が、医師、療法士・看護師・介護士の働き方を変えていく

医療保険・介護保険を取り扱う業界で働いている人たちの給料の財源は、社会保障費から捻出されている。

ご存知の通り、日本の債務超過は1000兆を超えており、従来のような手厚い社会保障を提供することは困難となっている。

そのため、近年の医療・介護の政策は「選択と集中」が推進され、より重症な人、より介護が必要な人、支援が困難な人に社会保障費が回されるようになっている。

逆説的に考えると、より重症な人、より介護が必要な人、支援が困難な人へ対応できる場合は、比較的、金額の高い社会保障費、すなわち診療報酬・介護報酬を得ることができると言える。

近年、進められている「選択と集中」の代表例は以下のようなものである。

急性期病院・療養型病院の重症化
在宅における終末期医療の推進
通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションの心身機能・活動・参加の推進
回復期リハビリテーション病棟の在院日数短縮と効果的なFIM獲得
精神病院の在宅復帰促進
通所介護における認知症・重症利用者・リハビリテーションの促進
地域包括ケア病棟における地域連携の実践

これらの内容は、20年前の医療・介護業界では全く求められていなかった。

また、各項目を達成するためには非常に難易度の高い技術が医療・介護従事者には求められる。

したがって、医療技術に長けた医療従事者、介護技術に長けた介護従事者の確保は、今日の医療機関や介護事業所にとっては大きな課題である。

市場原理から考えると、特定の市場で必要とされる人材には高賃金が払われやすい。

つまり、今の選択と集中の政策により作り出される市場で、必要とされる人材になれば高賃金という優遇を得られる可能性は高い。

’j«ŠÅŒìŽt_¢‚Á‚½

しかし、多くの医療・介護従事者はマーケット感覚などなく、ただ、目の前の臨床やサービスをこなしている。

マーケット感覚の乏しい医療・介護従事者は、「医療・介護従事者であればだれでもできる仕事」を一生懸命にこなしている可能性が高い。

「誰にでもできる仕事」が不要だとは言わない。

組織においては、「誰にでもできる仕事」を一生懸命してくれる人は必要である。

優秀な人や管理職が脚光を浴びることができるのは、その裏で支える人たちの存在があるからである。

ただ、「心底、賃金を上げたいと考えている人」は今の自分が「誰にでもできる仕事」をしているかどうかについて、真剣に考えたほうがいい。

医療・介護従事者で国家資格を持っているとはいえ、医療・介護技術のコモディティー化が進んでいる。

市場の状況を冷静に分析する力。

この能力がこれからの医療・介護従事者には必要である時代になっている。

 

セラピストの職域拡大の鍵は、「企業との連携」にある

理学療法士等のセラピストの過剰供給が顕在化している。

既存の医療・介護分野の事業モデルでは、毎年、1万人以上のペースで増え続ける理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の雇用を継続的に維持することは困難である。

65歳以上の高齢者の数は、2042年でピークを迎え、その後急速に減少していくと予想されている。

また、2040年以降の日本国全体の人口減少も著しくなる。

つまり、これからの未来では理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の雇用の場はジリ貧となる。

したがって、現状の医療・介護分野の事業モデルだけでなく、セラピストが活躍できる「場」を作って行かなければ、セラピストの雇用の絶対数は減少する。

そのため、現在、セラピストの各種職能団体より、「新たなセラピストの活動の場」が提案されている。

しかし、現実的には、「新たなセラピストの活動の場」を現場の「イチ理学療法士」・「イチ作業療法士」・「イチ言語聴覚士」が開拓することは極めて難しい。

新しい職域を開拓するためには、優秀なマーケティング能力が必要である。

しかし、マーケティングに関してセラピストは学ぶ機会は皆無であり、そもそもマーケティングの意味さえもわからない人がほとんどである。

 

are-you-making-the-right-connections

そのような状況で、「新たなセラピストの活躍の場」を作るには、どのようにすれば良いか?

それは、「企業と連携してセラピストの能力を社会に活かす」ということである。

企業は、資金力・販促ルート・既存顧客・人脈などを持っている。

その企業にセラピストの能力を活用してもらい新たなサービスや商品を作り出すことが、最も効率の良い方法である。

また、セラピストが新しい取り組みをした場合、様々なところから「イチャモン」がつく。

そのような「イチャモン」が発生しても、企業の場合は顧問弁護士などを通じて法的な立場から対応をしてもらえるというメリットがある。

セラピストの能力が活かせる業界との接点を持つためには、企業展示会、異業種交流イベント、ヘルスケア関連の学会などに参加すると良い。

セラピストが企業と連携をする。

そんな時代が10年後には常識になる前に、今から行動することをオススメする。

 

リハビリテーションの視点は、医療・介護事業のマネジメントをより良好なものに変えることができる

理学療法士や作業療法士という仕事は、医療の世界では後発組である。

現在、医師は31万人、看護師は准看護師も含めると142万人である。

医師法は1906年に、保健師助産師看護師法は1948年に制定されており、医療業界における数の力と歴史的な背景は他の職種を圧倒している。

したがって、今までの医療における制度設計や伝統的なしきたりは、医師と看護師の影響を強く受けていると言っても過言ではない。

事実、医師と看護師の業務範囲は大きく、その権限も強い。

診療報酬における施設基準要件や加算要件にも、医師と看護師の配置が圧倒的に他の職種より多い。

よって、医療における様々なマネジメントは、医師や看護師の考えや思想が反映されているものが多い。

医療におけるマネジメントに理学療法士・作業療法士の考えや思想が反映されにくい状況は今でも続いている。

筆者は2014年から、独立系の医療・介護コンサルタントとして活動している。

独立する以前も、大阪府内にある医療法人で8年間トップマネジメントを経験した。

これらの経験から言えることは、「理学療法やリハビリテーションの視点は、医療・介護事業のマネジメントをより良好なものに変えることができる」というものである。

地域包括ケアシステムというのは、いわゆるリハビリテーションの考え方と同義語である。

WHO(世界保健機関)は1981年にリハビリテーションを以下のように定義している。

リハビリテーションは、能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含んでいる。
リハビリテーションは障害者が環境に適応するための訓練を行うばかりでなく、障害者の社会的統合を促す全体として環境や社会に手を加えることも目的とする。
そして、障害者自身・家族・そして彼らの住んでいる地域社会が、リハビリテーションに関するサービスの計画と実行に関わり合わなければならない。

まさに、地域包括ケアシステムの考えと同じであり、地域包括ケアシステムの起源はリハビリテーションであると言っても良い。

160fc30aacaeb212a91e18142ac0809d_s

直近の診療報酬改定・介護報酬改定は、「地域包括ケアシステム」を強く推進しており、リハビリテーションの概念を医療・介護に文化的なレベルまで浸透させようとしているものである。

疾病構造や社会保障システムの変化は、医療・介護機関のリハビリテーションの実践を要求するようになった。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が経営や運営にかかわる意味はここにある。

経営や運営にリハビリテーションの視点を導入していくことが、診療報酬、介護報酬上の恩恵を受けることができ、さらに利用者・患者満足度も高い状況を作り出すことができる。

今こそ、経営・運営に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がかかわるタイミングである。

 

理学療法士過剰供給は、「競争を諦めたら、淘汰されるだけ」という状況を加速させる

このブログをはじめ、様々なメディアで理学療法士の過剰供給について述べられている。

近年は日本理学療法士協会や各都道府県理学療法士会の学術大会や印刷物においても、理学療法士の過剰供給が触れられており、過剰供給問題に対する対策などが議論されている。

日本理学療法士協会も将来の理学療法(士)の在り方について、様々な検討・提案を行っている。

現在行われている医療・介護分野(地域包括ケアシステムを含む)に加え
スポーツ・学校保健・高齢者に対する予防分野への対応
産業保健・児童福祉に対する理学療法の提供
終末期に対する理学療法
が新規参入分野として検討され、試験的な取り組みも開始されている。

確かに、これらの分野に理学療法が導入されていることは画期的であり、社会に貢献するものである。

ただし、現在、推進が検討されている分野の財源は社会保険料や税金を主なものとしている。

したがって、財源確保の観点から考えると,将来にわたり、理学療法士の雇用や人件費を高い水準で保証することは不可能である。

毎年、1万人以上で増えていく理学療法士。

2025年には、現在より9万人以上増えて、総計20万人を超えている。

2050年にはとんでもない数になっている。

どう考えても、全理学療法士の雇用や給料を保証することなんてできない。

d3c81fc6b6ec7987487857eb7a58d551_s

そもそも理学療法士だけが保証されている世の中を期待するほうが、社会常識で考えれば異常である。

資本主義国である日本では、ラーメン屋も、牛丼屋も、服屋も、家電量販店も、本屋も、歯科医院も、診療所もすべて、過剰供給である。

過剰供給だから、競争が起きる。

競争を諦めれば、潰れるだけである。

日本理学療法士協会の様々な提案は本当に素晴らしいものである。

理学療法を様々な分野に活かすことができれば、間違いなく社会に貢献することはできる。

しかし、多くの理学療法士は、理学療法士協会や国が生きる道を創ってくれることを待っている。

ほとんどの理学療法士は、自らの行動で未来を切り開く意思もないし、そんな教育も受けていない。

しかし、そのような待ちの姿勢では、理学療法士のマーケットは広がらない。

時には、理学療法士協会や国の提案より先行した事業モデルや取り組みを行う必要がある。

これからの理学療法士は、理学療法士協会や国に様々な提案を行うぐらいの気概が必要である。

理学療法士協会も、国も全理学療法士を救うことはできない。

まさに、競争を諦めれば、淘汰されるだけ。

そんな時代になっていることを理解できない理学療法士は淘汰されたらいい。

 

「ルールは平等ではないことを知っているセラピスト」が、社会では登りつめる

ルールには様々な種類がある。

日本に住んでいれば、法令、憲法、法律、政令、省令、条例、条約などが思いつく。

また、職場では、就業規則や業界のルールなどが存在する。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士も様々なルールの下で働いている。

一見、「ルールは平等なもの」に見えるがそれは全くのウソである。

ルールというのは、「ルールを作った人や組織が自らが有利になるように作られる」ものである。

国のルールは官僚が作っており、官僚には不利にならないように作られている例がわかりやすい。

キャリアデザインでもビジネスでも、ルールを作った側の方が圧倒的に有利である。

ルールなんてどうやったら作れるの?
雇われの身分なんだからルールなんか作れないよ!
という声が聞こえてきそうである。

しかし、「ルールは不平等である」という現実の直視が、キャリアデザインやビジネスには重要であることには変わらない。

雇われているサラリーマンは、どんな理不尽なルールや規則であっても従わなければならない。

従わないのであれば、解雇を覚悟しなければならない

そして、解雇されずにルールを変えようとするのではあれば、
経営者になるか
買収するか
最上級幹部になるか
しかない。

しかし、それらは現実的な方法ではない。

bbb439482afccce150aa525c2e34c10e_s

では、どうすればよいのか?

ルールが作れる業界や分野で自分のリーダーとして積極的にルール作りに参画できる状況を作っていくことが重要である。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が有利に働くためには、
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が有利に働ける診療報酬改定や介護報酬改定のルールを作る
地域連携における理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が必要とされるルールを作る
社内で理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が有利となる人事考課制度を作る
リハビリテーション業界で強い力を発揮する経験や資格を取得し、ルール上有利になる
などの方法がある。

また、
リハビリテーションの技術分野や地域リハビリテーションのオピニオンリーダーになる
まったく開拓されていない分野のパイオニアになる
組織を立ち上げて、ビジネスを行う
の方法では、より理学療法士・作業療法士・言語聴覚士に有利な状況を作ることができるだろう。

ルールは平等ではない。

ルールは作る側になる。

キャリアデザインやビジネスにおいては、極めて重要な視点である。