重症患者・利用者の評価ができないセラピストが干される時代へ

近年の医療保険・介護保険に関する改定のトレンドの一つは、「重症対応」である。

リハビリテーション分野に関しても「重症対応」が進んでおり、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は「重症者へのリハビリテーション技術」を獲得しなければならない時代になってきた。

急性期病棟や回復期リハビリテーション病棟の重症患者の受け入れ
療養型病院の医療区分の厳格化
訪問看護ステーションの特定疾患やターミナル患者への評価
などは、そこに勤めるセラピストに「重症対応」という課題を突き付けている。

2006年の疾患別リハビリテーション料、算定日数上限
2008年の回復期リハビリテーション病棟へのP4P
は、「著しい回復が見込める患者に対する効果判定」を行うものであった。

しかし、2012年以降の診療報酬・介護報酬改定は「重症対応」を推進したため、リハビリテーション関係職種は回復期過程の患者・利用者だけでなく、重症な患者・利用者への対応が必要となってきている。

回復過程の患者の評価についてはすでに様々な手法が開発されている。

手段的ADLの質問票
1) Lawtonの尺度
電話をする能力、買い物、食事の準備、家事、洗濯、移動の形式、服薬管理、金銭管理の項目からなる。
2) 老研式活動能力指標
手段的ADL(交通機関を使っての外出、買い物、食事の準備、請求書の支払いなど)、知的能動性(書類を書く、新聞を読む、本・雑誌を読むなど)、社会的役割(友人への訪問、家族や友人からの相談、病人のお見舞いなど)の13項目からなる。
3) DASC-21
認知症のスクリーニングのための21の質問の中に、手段的ADLの買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理、電話、食事の準備、金銭管理が含まれている。

基本的ADLの質問票
1) Barthel Index
整容、食事、排便、排尿、トイレの使用、起居移乗、移動、更衣、階段、入浴の10項目からなる。20点満点で採点する方法と100点満点で採点する方法とがある

2) Katz Index
入浴、更衣、トイレの使用、移動、排尿・排便、食事の6つの領域 のADLに関して自立・介助の関係より、AからGまでの7段階 の自立指標という総合判定を行う。

3) DASC-21
認知症のスクリーニングのための21の質問の中に、基本的ADLの入浴、更衣、排泄、整容、食事、移動が含まれている。

4)FIM
機能的自立度評価表(Functional Independence Measure)の略で、1983年にGrangerらによって開発されたADL評価法である。 特に介護負担度の評価が可能であり、ADL評価法の中でも、最も信頼性と妥当性があると言われ、リハビリの分野などで幅広く活用されている。

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しかし、重症患者・利用者のリハビリテーションに特化したアウトカムは普及していない。

重症患者・利用者の評価は主に医師や看護師のアセスメントで用いられる項目が多い。

血液データ
栄養状態
肝機能
水分摂取量
嚥下状態
皮膚状態
排泄パターン
呼吸機能
循環機能
意識レベル
など・・・・数多くの項目が重症患者・利用者の評価に使われている。

しかし、これらの項目を用いた評価は、もっとも理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が苦手とするところである。

養成校・実習においてこれらの評価を学ぶ機会は非常に少ない。

訪問看護ステーション、療養型病院、サービス付き高齢者向け住宅などの重症利用者に対応している事業所に勤める理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は、上記した項目を評価指標としてリハビリテーションを展開できる能力が必要である。

IADLやADLだけでなく、生命の質やターミナル期の評価がこれからの時代は必須になってくる。

 

 

 

 

 

職場づくりに活きる理学療法・作業療法・言語聴覚療法の価値は高い

筆者のクライアント先の医療機関や介護事業所が抱える様々な問題の中に、医療や介護現場における「質の低いケア」が挙げられる。

質の低いケアの中身を確認すると以下のようなものが挙げられる。

口腔ケアが不十分である

食事介助がいい加減である

移動介助技術が低く、腰痛を発生している職員が多い

褥瘡を持つ利用者への姿勢に難渋している

拘縮が予防できない

トイレや入浴時に転倒が多い

認知症患者のBPSDが進んでいる

痰の多い利用者への対応ができてない

誤嚥性肺炎患者が多く退所が多い

車椅子の姿勢が悪い利用者が多い

福祉用具・自助具・装具の使い方がわからない

レクレーションがマンネリ化している

在宅復帰に向けた在宅の環境調整が難しい

これらの内容は全国津々浦々の医療機関・介護事業所にあるのではないだろうか?

質の低いケアがもたらす影響は大きい。

従業員の仕事への熱意が低下しケアのネグレクトや虐待につながることや、業務内容から人間関係の悪化や退職につながることもあるだろう。

技術の高さは個別のケアの質を高めるだけでなく、「職場の空気や文化」にも影響を与えるものである。

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ほとんどの理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は目の前の患者や利用者のために働いている。

「よりよい職場を作る」ために働いている人はどれぐらいいるだろうか。

上記した様々な問題の解決に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は貢献できることができる。

多職種が横断的に働く地域包括ケア時代においては、職場づくりの理学療法、作業療法、言語聴覚療法が重宝される。

あなたの理学療法、作業療法、言語聴覚療法は「職場づくり」に役に立っているだろうか?

そこに、今後の働き方のヒントがある。

 

 

 

 

 

2018年度診療報酬・介護報酬ダブル改定で予想されることを全部書いてみた

急性期病棟
5:1病棟の創設
7:1病棟の看護必要度の厳格化
7:1病棟の平均在院日数短縮(17日~16日)
7:1自宅等復帰率80%以上
10:1自宅等復帰率60%以上
13:1・15:1病棟の入院基本料減額
DRG/PPS対象の拡大
認知症対応の標準化
退院支援加算の増額と要件強化(プロセス・ストラクチャー評価だけでなくアウトカム評価導入)
ADL維持向上等体制加算の点数増加とアウトカム要件の厳格化
7:1病棟からの直接自宅退院の評価
集中治療室におけるリハビリテーションの評価

回復期病棟
FIM利得率の厳格化
在院日数低下(脳卒中150日・運動器90日)
6単位標準化(9単位を行う場合は特別な条件が必要)
家屋評価・退院前ADL指導・地域連携等の評価料の増額
80歳以上・高ADL・低ADL患者の入院制限要件の強化
施設基準Ⅲの消滅
施設基準Ⅰの要件強化(訪問リハビリテーション事業や通所リハビリテーション事業の必置等)

地域包括ケア病棟
在宅患者からの入院患者の受け入れ評価
低ADL患者の受け入れ評価
在宅復帰率の要件強化(80%)
在宅復帰に向けたシーティング・ポジショニング・福祉機器調整や指導の評価

療養型病床
医療区分の厳格化
特殊疾患病棟・障害者病棟・療養病棟の統合
摂食嚥下障害・排泄障害・循環障害・栄養障害に対するリハビリテーションの評価
在宅復帰のさらなる評価
退院支援加算の増額と要件強化(プロセス・ストラクチャー評価だけでなくアウトカム評価導入)
介護療養型病床の転換先として新たな医療強化型介護施設の新設

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外来リハビリテーション
算定上限日数超え要介護被保険者の外来リハビリテーションの廃止
若年者や回復が望める患者のリハビリテーション算定日数の緩和
消炎鎮痛処置料とリハビリテーション料の要件の厳格化

通所介護
認知症対応・リハビリテーション対応・重症対応していない事業所の単位数低下
生活相談員の要件強化(外部連携の強化や地域資源の発見)
個別機能訓練加算Ⅱの要件強化
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の配置加算
通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションの連携加算

通所リハビリテーション
短時間通所リハビリテーションの増額と要件強化(活動・参加・卒業)
認知症対応・重症対応の加算増額と要件強化
言語聴覚士対応の加算の設置
訪問リハビリテーションとの連携評価
リハビリテーション会議の要件強化(医師の出席要件)

訪問リハビリテーション事業所
活動・参加・卒業の要件強化
地域連携に関する連携加算
重症度対応に対する加算

訪問看護ステーション
PT・OT・STによる訪問看護サービスの回数制限もしくは期間制限(介護保険)
看取りに対する看護・リハビリテーションの評価
活動・参加に関する加算の新設
要支援者の訪問看護サービス料の減額

その他
(看護)小規模多機能型居宅介護と定期巡回・随時対合型訪問介護看護の要件緩和と単位の増加
要介護1と2の単位数の低下
介護老人保健施設の医療費包括化の見直し
特別養護老人ホームにおける訪問看護サービスの要件緩和

 

 

 

 

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の間違った専門性の解釈は、リハビリテーションの効果を減弱させる

リハビリテーション関連職種やリハビリテーション医療を行う医療機関・介護事業所の増加により理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が一緒に働く機会が増えている。

筆者のクライアント先のほとんどで医療機関や介護事業所でも、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が一緒に働いている。

小生が理学療法士になった2000年初頭では、三職種が一緒に働いている職場は非常に珍しく、多くの職場では理学療法士のみが働いているというのが一般的であった。

そのため、昔と比較して、理学療法だけでなく、作業療法、言語聴覚療法も提供できるようになったため、医療機関や介護事業所のリハビリテーションの機能は上がっていると考えられる。

しかしながら、大きな問題が顕在化しつつある。
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それは、「理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の間違った専門性の解釈」である。

一人の患者に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が担当する場合、セラピスト間で患者に関する情報を共有することが一般的である。

しかし、多くの医療機関や介護事業所では、「各職種の専門性に関する情報」を共有することが多い。

例えば、嚥下障害が大きな問題である患者に関する、申し送りを行った場合に以下のような申し送り内容になることはないだろうか?

理学療法士:座位保持が延長しており、覚醒状態も改善しています
作業療法士:上肢を用いて、スプーンで口に食物を運ぶことができるようになってきました
言語聴覚士:食事中、誤嚥の回数が減ってきており、食事時間も短縮しています

このような申し送り内容は、意味はないとは言わないが、リハビリテーションの効果を高めるのは難しい。

なぜならば、各申し送り内容は「嚥下障害」にフォーカスを当てたものではなく、療法士自身の「専門性」にフォーカスを当てているものだからだ。

「嚥下障害」がなぜ起きるのか?ということに対して理解がないため各職種は自身がわかる範囲のこと(自身の専門性)について述べるしかできない結果、「嚥下障害」の改善に役に立つ情報を提供することができないと言える。

嚥下を阻害する座位アライメントの変化や今後の改善の見通し
食事動作時の体幹・頚部アライメントの変化や上肢機能と嚥下の関係
誤嚥の回数が低下した機序の分析と座位・食事動作の関連

などについて各職種が述べることができれば、「嚥下障害」に対する各職種の介入が円滑に進みやすくなる。

理学療法士だから基本動作
作業療法士だから応用動作
言語聴覚士だから摂食嚥下

という枠組みを超えて、基本動作・応用動作・摂食嚥下に共通する普遍的な生理学・解剖学・運動学を治療に応用できるセラピスは、真の意味で専門性を発揮していると言える。

 

 

 

「誰でもできる仕事では賃金は上がらない」という極めてシンプルな市場原理が、医師、療法士・看護師・介護士の働き方を変えていく

医療保険・介護保険を取り扱う業界で働いている人たちの給料の財源は、社会保障費から捻出されている。

ご存知の通り、日本の債務超過は1000兆を超えており、従来のような手厚い社会保障を提供することは困難となっている。

そのため、近年の医療・介護の政策は「選択と集中」が推進され、より重症な人、より介護が必要な人、支援が困難な人に社会保障費が回されるようになっている。

逆説的に考えると、より重症な人、より介護が必要な人、支援が困難な人へ対応できる場合は、比較的、金額の高い社会保障費、すなわち診療報酬・介護報酬を得ることができると言える。

近年、進められている「選択と集中」の代表例は以下のようなものである。

急性期病院・療養型病院の重症化
在宅における終末期医療の推進
通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションの心身機能・活動・参加の推進
回復期リハビリテーション病棟の在院日数短縮と効果的なFIM獲得
精神病院の在宅復帰促進
通所介護における認知症・重症利用者・リハビリテーションの促進
地域包括ケア病棟における地域連携の実践

これらの内容は、20年前の医療・介護業界では全く求められていなかった。

また、各項目を達成するためには非常に難易度の高い技術が医療・介護従事者には求められる。

したがって、医療技術に長けた医療従事者、介護技術に長けた介護従事者の確保は、今日の医療機関や介護事業所にとっては大きな課題である。

市場原理から考えると、特定の市場で必要とされる人材には高賃金が払われやすい。

つまり、今の選択と集中の政策により作り出される市場で、必要とされる人材になれば高賃金という優遇を得られる可能性は高い。

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しかし、多くの医療・介護従事者はマーケット感覚などなく、ただ、目の前の臨床やサービスをこなしている。

マーケット感覚の乏しい医療・介護従事者は、「医療・介護従事者であればだれでもできる仕事」を一生懸命にこなしている可能性が高い。

「誰にでもできる仕事」が不要だとは言わない。

組織においては、「誰にでもできる仕事」を一生懸命してくれる人は必要である。

優秀な人や管理職が脚光を浴びることができるのは、その裏で支える人たちの存在があるからである。

ただ、「心底、賃金を上げたいと考えている人」は今の自分が「誰にでもできる仕事」をしているかどうかについて、真剣に考えたほうがいい。

医療・介護従事者で国家資格を持っているとはいえ、医療・介護技術のコモディティー化が進んでいる。

市場の状況を冷静に分析する力。

この能力がこれからの医療・介護従事者には必要である時代になっている。