医療機能の変化は医療・介護職にワークシフトを突きつける

医療・介護の在宅シフトが加速している。

診療報酬・介護報酬改定により、在宅医療・介護の流れが構築されているが、最も効果的な政策は、「病床を調整する」ことである。

現在、地域医療構想に関して、各都道府県で検討されており、2016年度末までには各都道府県より、将来的な病床の整理に関する具体的な数値が発表される。

それに先駆けて、国は将来的な医療・介護の必要病床数を何度も提示している。

2016年6月15日に開催された「第五回 医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」では、新たな病床の在り方に関する報告が行われた(下図)。
sinkoku   第五回 医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会 資料

注目するべきは、以下の点である。
1)高度急性期・急性期機能の削減が著しい
2)回復期機能の増加が著しい ※地域包括ケア病棟を相当数含む。
3)慢性期機能の削減が著しい
4)介護施設・高齢者住宅での医療機能の増加が著しい

今回の報告と昨今の診療報酬改定・介護報酬改定の流れと合わせると
1.高度急性期・急性期・慢性期は医療必要度の高い人への対応
2.回復期機能は回復期リハビリテーション病棟を強化するのではなく、地域包括ケア病棟による多様な疾患・症状を持つ人への対応
3.介護施設や高齢者住宅にて重度者への医療の提供
という意図を読み取ることができる。

将来的な高齢者の減少と若年層の減少を考えると、日本国にこれほど病床がいらないことは理解できる。

問題は、在宅医療、在宅介護、予防医療、終末期医療に関するハード面とソフト面が整っていないことである。

病床機能の転換は、医療・介護業界で働く人のソフト面の転換も必要としている。

地域医療構想や政府の政策を読み取り、医療機関や介護事業所は、マネジメントや人材育成の強化に乗り出さなければ、これから急変する医療・介護情勢の変化についていけなくなるだろう。

 

セラピストの職域拡大の鍵は、「企業との連携」にある

理学療法士等のセラピストの過剰供給が顕在化している。

既存の医療・介護分野の事業モデルでは、毎年、1万人以上のペースで増え続ける理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の雇用を継続的に維持することは困難である。

65歳以上の高齢者の数は、2042年でピークを迎え、その後急速に減少していくと予想されている。

また、2040年以降の日本国全体の人口減少も著しくなる。

つまり、これからの未来では理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の雇用の場はジリ貧となる。

したがって、現状の医療・介護分野の事業モデルだけでなく、セラピストが活躍できる「場」を作って行かなければ、セラピストの雇用の絶対数は減少する。

そのため、現在、セラピストの各種職能団体より、「新たなセラピストの活動の場」が提案されている。

しかし、現実的には、「新たなセラピストの活動の場」を現場の「イチ理学療法士」・「イチ作業療法士」・「イチ言語聴覚士」が開拓することは極めて難しい。

新しい職域を開拓するためには、優秀なマーケティング能力が必要である。

しかし、マーケティングに関してセラピストは学ぶ機会は皆無であり、そもそもマーケティングの意味さえもわからない人がほとんどである。

 

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そのような状況で、「新たなセラピストの活躍の場」を作るには、どのようにすれば良いか?

それは、「企業と連携してセラピストの能力を社会に活かす」ということである。

企業は、資金力・販促ルート・既存顧客・人脈などを持っている。

その企業にセラピストの能力を活用してもらい新たなサービスや商品を作り出すことが、最も効率の良い方法である。

また、セラピストが新しい取り組みをした場合、様々なところから「イチャモン」がつく。

そのような「イチャモン」が発生しても、企業の場合は顧問弁護士などを通じて法的な立場から対応をしてもらえるというメリットがある。

セラピストの能力が活かせる業界との接点を持つためには、企業展示会、異業種交流イベント、ヘルスケア関連の学会などに参加すると良い。

セラピストが企業と連携をする。

そんな時代が10年後には常識になる前に、今から行動することをオススメする。

 

リハビリテーションの視点は、医療・介護事業のマネジメントをより良好なものに変えることができる

理学療法士や作業療法士という仕事は、医療の世界では後発組である。

現在、医師は31万人、看護師は准看護師も含めると142万人である。

医師法は1906年に、保健師助産師看護師法は1948年に制定されており、医療業界における数の力と歴史的な背景は他の職種を圧倒している。

したがって、今までの医療における制度設計や伝統的なしきたりは、医師と看護師の影響を強く受けていると言っても過言ではない。

事実、医師と看護師の業務範囲は大きく、その権限も強い。

診療報酬における施設基準要件や加算要件にも、医師と看護師の配置が圧倒的に他の職種より多い。

よって、医療における様々なマネジメントは、医師や看護師の考えや思想が反映されているものが多い。

医療におけるマネジメントに理学療法士・作業療法士の考えや思想が反映されにくい状況は今でも続いている。

筆者は2014年から、独立系の医療・介護コンサルタントとして活動している。

独立する以前も、大阪府内にある医療法人で8年間トップマネジメントを経験した。

これらの経験から言えることは、「理学療法やリハビリテーションの視点は、医療・介護事業のマネジメントをより良好なものに変えることができる」というものである。

地域包括ケアシステムというのは、いわゆるリハビリテーションの考え方と同義語である。

WHO(世界保健機関)は1981年にリハビリテーションを以下のように定義している。

リハビリテーションは、能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含んでいる。
リハビリテーションは障害者が環境に適応するための訓練を行うばかりでなく、障害者の社会的統合を促す全体として環境や社会に手を加えることも目的とする。
そして、障害者自身・家族・そして彼らの住んでいる地域社会が、リハビリテーションに関するサービスの計画と実行に関わり合わなければならない。

まさに、地域包括ケアシステムの考えと同じであり、地域包括ケアシステムの起源はリハビリテーションであると言っても良い。

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直近の診療報酬改定・介護報酬改定は、「地域包括ケアシステム」を強く推進しており、リハビリテーションの概念を医療・介護に文化的なレベルまで浸透させようとしているものである。

疾病構造や社会保障システムの変化は、医療・介護機関のリハビリテーションの実践を要求するようになった。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が経営や運営にかかわる意味はここにある。

経営や運営にリハビリテーションの視点を導入していくことが、診療報酬、介護報酬上の恩恵を受けることができ、さらに利用者・患者満足度も高い状況を作り出すことができる。

今こそ、経営・運営に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がかかわるタイミングである。

 

理学療法士過剰供給は、「競争を諦めたら、淘汰されるだけ」という状況を加速させる

このブログをはじめ、様々なメディアで理学療法士の過剰供給について述べられている。

近年は日本理学療法士協会や各都道府県理学療法士会の学術大会や印刷物においても、理学療法士の過剰供給が触れられており、過剰供給問題に対する対策などが議論されている。

日本理学療法士協会も将来の理学療法(士)の在り方について、様々な検討・提案を行っている。

現在行われている医療・介護分野(地域包括ケアシステムを含む)に加え
スポーツ・学校保健・高齢者に対する予防分野への対応
産業保健・児童福祉に対する理学療法の提供
終末期に対する理学療法
が新規参入分野として検討され、試験的な取り組みも開始されている。

確かに、これらの分野に理学療法が導入されていることは画期的であり、社会に貢献するものである。

ただし、現在、推進が検討されている分野の財源は社会保険料や税金を主なものとしている。

したがって、財源確保の観点から考えると,将来にわたり、理学療法士の雇用や人件費を高い水準で保証することは不可能である。

毎年、1万人以上で増えていく理学療法士。

2025年には、現在より9万人以上増えて、総計20万人を超えている。

2050年にはとんでもない数になっている。

どう考えても、全理学療法士の雇用や給料を保証することなんてできない。

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そもそも理学療法士だけが保証されている世の中を期待するほうが、社会常識で考えれば異常である。

資本主義国である日本では、ラーメン屋も、牛丼屋も、服屋も、家電量販店も、本屋も、歯科医院も、診療所もすべて、過剰供給である。

過剰供給だから、競争が起きる。

競争を諦めれば、潰れるだけである。

日本理学療法士協会の様々な提案は本当に素晴らしいものである。

理学療法を様々な分野に活かすことができれば、間違いなく社会に貢献することはできる。

しかし、多くの理学療法士は、理学療法士協会や国が生きる道を創ってくれることを待っている。

ほとんどの理学療法士は、自らの行動で未来を切り開く意思もないし、そんな教育も受けていない。

しかし、そのような待ちの姿勢では、理学療法士のマーケットは広がらない。

時には、理学療法士協会や国の提案より先行した事業モデルや取り組みを行う必要がある。

これからの理学療法士は、理学療法士協会や国に様々な提案を行うぐらいの気概が必要である。

理学療法士協会も、国も全理学療法士を救うことはできない。

まさに、競争を諦めれば、淘汰されるだけ。

そんな時代になっていることを理解できない理学療法士は淘汰されたらいい。

 

合議制という名のくだらない会議が医療機関・介護事業所を崩壊させる

現場の意見を吸い上げたい
現場から病院を変えてほしい
現場の声を経営に活かしたい
現場が経営感覚を持ってほしい
などの理由から、物事を決めるプロセスに「合議制」を取り入れる医療機関や介護事業所が多い。

合議制とは、「みんなで話し合って、運営の方針を決めよう」というものである。

しかし、私は断言する。

「合議制を取り入れている医療機関・介護事業所でろくなところはない」

合議制は一見、民主主義・平和主義的であり、なんとなく雰囲気が良い。

しかし
1.意思決定のスピードが遅い
2.責任の所在が曖昧
3.経営の論理を無視した結論が出やすい
という最悪な特徴を有している。

また、「経営責任者や管理職が自らの職責を丸投げする手段」として、「合議制」は都合が良い。

「自分自身が仕事をしたくないから、現場の職員に仕事を振りたい。本音を言うと、嫌われるから、合議制を導入して、みんなで決めてもらおう。」という魂胆である。

よく、「現場に経営感覚を持ってほしいから合議制としている」という経営者がいるが、はっきり言って現場が経営感覚など持てるわけがない。

経営感覚をもつ動機や志、そして経営責任としての処遇がない人たちに、どうやって経営感覚ももってもらうのだ!!

だいたい、「経営感覚を社員に持たせる」こと自体が、ブラック企業の所業である。

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社員が経営感覚を持たなくても、うまく運営できるようにカジ取りしていくのが、経営者や管理職の役割である。

最大の矛盾は、合議制であるからこそ、責任が分散して、誰も責任ある行動をとることができないということである。

病棟の稼働率が低下した
リハビリテーションの患者が減った
外来の新患が減った
ケアマネからの紹介が減った
人件費が増加している
残業代が増えている
離職者が増えている

こんな状況になった時にだけ、「合議制でみんなで対策を考えよう」という経営者や管理者はさらに最低である。

大体、こんな状況にならないようにするのが、経営者や管理者の仕事ではないか?

合議制に騙されてはならない!!