あかんもんは、あかん。というマネジメントが最後は勝つ。

限りなくブラックに近いマネジメント手法が、全国津々浦々には存在する。

筆者のもとには、全国から様々な質問が寄せられる。

医療保険で疾患別リハビリテーションの上限日数が超えたので、疾患の付け替えをしていますが、それはだめでしょうか?

通所リハビリテーションで利用者にマッサージを提供していますが、それではリハビリテーションにならないでしょうか?

服薬指導において、意思疎通が取れない患者に対して、元気ですか?と声かけだけで加算をとるのはだめでしょうか?

回復期リハビリテーション病棟の医師が患者の回診をほとんどしないのが常態化していますが、やっぱりまずいですよね?

1時間の訪問看護で毎回、半分以上は看護に関係のないおしゃべりをして、1時間の算定をしてますが、これってばれないですよね?

これらの質問は本当にあったものである。

全部、「あかんにきまってるやん!」(大阪弁)です。

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このような質問をしてくる人は、心のどこかに「自分たちはとんでもないことしている。だから、誰に駄目だと言ってほしい」という心理が働いている。

私から、「そのようなはすべていけないことだ」と諭すように話をすると、「自分たちのしていることが、だめだと感じている。しかし、経営幹部からのプレッシャーがあり、やってはいけないことを容認している。どうしたものか・・・」という気持ちを打ち明けてくる。

しかし、あえて言う。

経営幹部からのプレッシャーだろうが、なんだろうが、「あかんものは、あかん」である。

こういったモラルハザードを容認する組織は、遅かれ早かれ必ず崩壊する。

経営幹部と喧嘩しろと言っているのではない。

モラルのある事業所運営を行うことも、医療・介護の国家資格を持つ専門職の職責である。

政府や保険者は様々な手法を通じて、医療・介護事業所で行われているモラルハザードを把握している。

そのモラルハザードに加担している専門職に対しては、診療報酬改定や介護報酬改定を通じて手痛い打撃を与えてくる。

「あかんもんは、あかん!!ちゃんとした事業所運営をしよう!」という気持ちを強く持つことから、事業所改革は始まる。

事業所改革の強い気持ちを持つことができないことを、経営幹部からのプレシャーという言い訳をして、責任転嫁をしてはいけない。

管理職を今こそ、立ち上がれ。

急性期病院からの直接の自宅復帰が評価される時代に突入した

近年の入院医療に関する診療報酬改定では、在宅復帰を評価する流れが進んでいる。

在宅復帰というと、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟が注目されがちであるが、実は、急性期病棟と療養病棟の在宅復帰の評価が急速に進んでいる。

平成26年度のデータでは、7:1病棟の退院患者の76%が、どこの病棟も経由せずに直接、自宅に戻っている。

急性期と在宅の連携

医療費削減の観点から考えると、患者が急性期病院から病院や施設も経由せずに直接自宅に帰ることは、非常に望ましいことである。

回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、老人保健施設を経由すると、医療費や介護給付費が生じ、社会保障費の増大につながるからだ。

したがって、急性期病院から直接自宅に復帰することは、政府としては是非とも進めたいことである。

急性期病院から直接自宅に復帰する政策として、様々なものが導入されている。

回復期リハビリテーション病棟には、従来より入院できる疾患の条件、在宅復帰率、重症患者率などの要件が設定されている。

これらの要件に加え、2016年度診療報酬改定では、回復期リハビリテーション病棟は「効果的なFIMの獲得」ができなければ、7単位以上のリハビリテーション料の請求ができなくなり、入院料に包括化されることになった。

また、効果判定に活用するFIMを用いた計算式から以下の者が毎月3割まで除外できると規定されている。

1. FIM運動項目が著しく高い(76点以上)・低い(20点以下)の者
2. FIM認知項目が低い(25未満)の者
3. 年齢が80歳以上の者

これらの1から3に該当する患者像は、「大きなADLの回復が難しい者」であると言える。

つまり、これらの患者の入院が増え、入院比率が3割以上となればFIMの計算式に入れなければならず、FIM改善率が低下する可能性が高い。

以上のことをまとめると、回復期リハビリテーション病棟には、入院できる疾患が縛られている上に、ADLの大きな回復が見込める患者であり、かつ、在宅復帰が期待される患者しか入院できない制度設計が進行していると言える。

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また、2016年度診療報酬改定では、急性期病院と療養病院に、退院支援加算が新設された。

退院支援加算の目的はずばり「在宅復帰困難者の在宅復帰支援を円滑に行うために、地域の介護事業者等との連携を図る」ことである。

この加算の対象者は、退院困難な要因を有する入院中の患者であって、在宅での療養を希望するものである。

一般病床と療養病床で算定ができる加算であるが、一般病床が600点、療養病棟が1,200点と非常に高い点数が設定されている。

加算の要件は厳しいものの、国が急性期病院と療養病院の自宅への直接復帰を推奨したい狙いが見え見えである。

20か所以上の連携する医療機関や介護事業所の職員と年に三回以上の定期的な面会を実施することが求められ、かつ、介護支援連携指導料の実績も求められていることから、早期への自宅への復帰を支援するための連携が標準化されつつあると言える。

これからは急性期病院と療養病院からの在宅復帰が大きな社会課題となってくる。

そのためには、地域におけるあらゆる社会資源を持つ組織や人材を有効に生かす必要がある。

セラピストを含め、医療従事者はこのようなトレンドを十分に知ったうえで働く必要があるだろう。

退院支援加算

入院医療に課せられた試練 インターナル・マーケティング

2016年度診療報酬改定の影響がじわじわと出てきている。

施設基準の維持や入院患者の確保が厳しい医療機関が現れてきており、厚労省の思惑通り、各医療機関の再編成や淘汰が起こっている。

特に、急性期病院と慢性期病院では経営的なダメージが大きくなっており、ダメージコントロールが益々重要となっている。

急性期病院のダメージコントロール項目
1)重症度、医療・看護必要度の患者割合25%以上
2)ICUの看護必要度厳格化への対応
3)総合入院体制加算の精神科要件への対応
4)ADL維持向上等体制加算の人員要件への対応
5)DPC/PDPSの診断群分類点数の変更への対応

慢性期病院のダメージコントロール項目
1)医療区分の厳格化(酸素療法・血糖検査・うつ症状の厳格化)
2)療養病棟入院基本料2に医療区分2.3が50%以上の要件追加

急性期病院・慢性期病院は「より重症な患者により高密度な医療を提供する機能」が求められており、入院医療の必要性が低い軽症患者や素泊まり希望の患者に医療を提供する医療機関は、診療報酬上、評価されない仕組みになっている。

したがって、医療機関が生き残るためには「より重症な患者により高密度な医療を提供する機能」を高めていく施策が必要となっている。

施策を設定するためには、マーケティング戦略の視点が重要である。

 

マーケティング

マーケティングとは
消費者の求めている商品・サービスを調査し、供給する商品や販売活動の方法などを決定することで、生産者から消費者への流通を円滑化する活動(三省堂 大辞林)
である。

一言でいえば、「価値を提供し対価を得る全てのプロセス」である。

一般的に、行われている広告・宣伝のような顧客向けのマーケティングは、エクスターナル・マーケティングと言われる。

現在の医療機関に求められているのは、エクスターナル・マーケティングではなく、インターナル・マーケティングである。

インターナルマーケティングは
「企業等が自らの商品・サービス価値を社内に浸透させる啓蒙活動であり、社内で商品・サービスへの価値観を共有化し、従業員の意識や行動の方向性を一致させる試み」
である。

自分たちの入院機能を高めるための理念・知識・技術を社内で共有し、行動の方向性を一致させなければ、今日の医療制度の下では生き残ることはできない。

入院医療を中心としている医療機関に必要なインターナル・マーケティングとしては、次のものがあげられる。

1)退院支援の強化
退院支援により軽症患者の在宅復帰が可能となり、重症度、医療・看護必要度の患者割合が向上しやすくなる。また、退院支援加算取得により収益の向上も見込まれる。

2)重症患者の受け入れルートや体制の確保
重症度、医療・看護必要度や医療区分2.3の割合を向上させるために、重症患者の受け入れルートや体制を確保する。救急機能の強化、手術部門の強化、在宅からの緊急受け入れ強化などを行うことで、医療必要度の高い患者が集まりやすい。

3)病床機能の転換
自院の地域性に適した病床へ転換することで、病床稼働率を安定的に維持することができる。地域の7:1急性期病棟が過剰、高齢者人口が減っている、近隣の病院が高度急性期へ転換しており、自院の急性期機能の役割が薄れているなどの場合は、10:1病棟、地域包括ケア病棟への転換も視野に入れるべきである。

4)認知症ケアの対応
認知症を有する患者が爆発的に増える中、急性期病院の認知症対応が求められている。入院中に、認知症が発症もしくは悪化し、治療が難渋、あるいは、ADLが低下し、結果、在院日数が増加することが多々みられる。また、急性期病院、療養病院ともに認知症ケアへの体制を強化し、認知症ケア加算を取得することが病院機能の向上に寄与する。

今までの医療・介護では、広告・宣伝などのエクスターナル・マーケティングに力を入れてきた。

確かに、エクスターナルマーケティングでも、患者が集まることから、自院のインターナルマーケティングに力を入れる医療機関は少なかった。

しかし、近年の診療報酬改定や介護報酬改定は、明らかに「サービスの質」を求める傾向があり、サービスの質の向上の有無が収益に直結する時代になったといえる。

インターナル・マーケティングは市場の雌雄を決する重要事項になっている。

複数資格取得推進政策に理学療法士資格が含まれるという相当な事態になっていることを知っていますか!!?

2016年7月16日 日本経済新聞に「医療・福祉にまたがる領域の資格の取得に関する規制緩和」に関する記事が掲載された(下図)。

予てより、フィンランドで導入されているラヒホイタヤという政策の導入が検討されていたがついに、現実味を帯びてきたと言える。

ラヒホイタヤとは、医療・介護・福祉領域の人材不足を補うために様々な資格を取得しやすいように各資格カリキュラムに共通科目を設ける制度である。

簡単に言えば、看護師と介護福祉士の資格を同時に取得するとった「ダブルライセンス」を推進するような政策である。

様々な資格を有する人を確保し、人材不足が生じた業界や領域に速やかに人材を供給することを目的としたものである。

また、在宅医療や介護において複数のサービス担当者が入れ替わりで訪問するのではなく、同一人物が医療や介護のサービスを提供してほしいという利用者側のニーズもあり、この制度が検討されている。

確かに複数の資格があれば、仕事の幅は広がる。

保育園で働いた後に、介護福祉士として高齢者施設で働くことや在宅にて介護福祉士として介護サービスをした後に、看護師として医療サービスを提供することが可能となる。

確かにキャリアデザインにおいて、本制度は有用であるといった印象がある。

新聞記事によると、介護士、保育士、看護師、理学療法士などが本制度の対象となっていると報道されている。

すなわち、理学療法士で介護福祉士、理学療法士で保育士、理学療法士で看護師などのダブルライセンスホルダーが今後生まれる可能性が高い。

この制度の導入は、理学療法士のキャリアにどのような影響を与えるのか?

複数の資格を持つことで、確かに複数の資格が有する専門的な業務を行うことはできるかもしれない。

しかし、複数の専門的な業務を行うことが許可されただけであって、各資格の専門的な業務の質が高いかどうかは不明である。

各資格の専門性の向上は、簡単なものではない。

時間と努力という投資をした結果、専門性が高まる。

看護師として働いている期間では、理学療法士としての専門性を向上させる機会を失ってしまう可能性は高い。

ただ、看護師として働きながら、理学療法士としての知識を看護業務に活かして、看護師としての能力を養うことはできるかもしれない。

複数の資格が取りやすくなる制度に関しては、理学療法士だけでなく、他の資格でも大きな波紋を呼ぶ制度になるだろう。

忘れてはならないことは、「ダブルライセンスホルダーだろうが、トリプルライセンスホルダーだろうが、その人のサービス提供価値が最終的には問われる」ということである。

専門性の高い価値を提供する
複数の領域の知識や経験を活かした価値を提供する

いずれにしても、このどちらができなければ労働市場では評価が低い。

ダブルライセンスやトリプルライセンスを持つことはあくまでも手段であり、目的ではない。

厚生労働省は、マンパワー不足や在宅医療・介護のサービス提供体制への対策として、この制度の導入を図っているが、労働者側である医療・介護・福祉職はこの制度に踊らされることなく、労働者としての真の価値を考えて行動するべきであろう。

理学療法士のキャリアデザインの重要性が益々高まっていることは確実である。

 

記事2016年7月16日 日本経済新聞

「ルールは平等ではないことを知っているセラピスト」が、社会では登りつめる

ルールには様々な種類がある。

日本に住んでいれば、法令、憲法、法律、政令、省令、条例、条約などが思いつく。

また、職場では、就業規則や業界のルールなどが存在する。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士も様々なルールの下で働いている。

一見、「ルールは平等なもの」に見えるがそれは全くのウソである。

ルールというのは、「ルールを作った人や組織が自らが有利になるように作られる」ものである。

国のルールは官僚が作っており、官僚には不利にならないように作られている例がわかりやすい。

キャリアデザインでもビジネスでも、ルールを作った側の方が圧倒的に有利である。

ルールなんてどうやったら作れるの?
雇われの身分なんだからルールなんか作れないよ!
という声が聞こえてきそうである。

しかし、「ルールは不平等である」という現実の直視が、キャリアデザインやビジネスには重要であることには変わらない。

雇われているサラリーマンは、どんな理不尽なルールや規則であっても従わなければならない。

従わないのであれば、解雇を覚悟しなければならない

そして、解雇されずにルールを変えようとするのではあれば、
経営者になるか
買収するか
最上級幹部になるか
しかない。

しかし、それらは現実的な方法ではない。

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では、どうすればよいのか?

ルールが作れる業界や分野で自分のリーダーとして積極的にルール作りに参画できる状況を作っていくことが重要である。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が有利に働くためには、
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が有利に働ける診療報酬改定や介護報酬改定のルールを作る
地域連携における理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が必要とされるルールを作る
社内で理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が有利となる人事考課制度を作る
リハビリテーション業界で強い力を発揮する経験や資格を取得し、ルール上有利になる
などの方法がある。

また、
リハビリテーションの技術分野や地域リハビリテーションのオピニオンリーダーになる
まったく開拓されていない分野のパイオニアになる
組織を立ち上げて、ビジネスを行う
の方法では、より理学療法士・作業療法士・言語聴覚士に有利な状況を作ることができるだろう。

ルールは平等ではない。

ルールは作る側になる。

キャリアデザインやビジネスにおいては、極めて重要な視点である。